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 昭和55年版 犯罪白書 第1編/第4章/第1節 

第4章 都市犯罪の国際比較

第1節 概  説

 第1章で述べたように,我が国の最近の犯罪現象は,欧米型の犯罪傾向を示しつつあるように見えるが,それは見方を変えれば,都市型の犯罪傾向と言うこともできる。我が国は昭和30年以降,重化学工業化を通じて高度成長を達成し,所得水準の上昇,分配の平等,自由時間の増大,人口の都市集中,都市的な生活様式の定着など,大量生産・大量消費の都市型社会に発展してきたが,それは我が国が欧米先進工業諸国に追いつく過程であるとともに,生産・流通・消費・文化等の都市への集中によって豊かな都市型社会を形成する過程でもあった。そして,犯罪現象が他の社会現象と同じように,社会と時代の産物である以上,我が国が先進工業諸国並みの豊かな社会を実現する過程において,また,現代のような国際化時代においては,犯罪が欧米型ないし都市型の特質を示すことは,ある意味ではむしろ当然とも言えよう。特に,交通網,モータリゼーション,マスメディア等の発達による現代の流動化・情報化社会では,都市的な生活様式・文化は,都市から地方へ急速に拡散し定着するに至る。都市犯罪の特質は,人口の過剰集中,生活意識・行動の多様性と規範意識の低下,核家族化による家族機能の減退,個人の孤立化と匿名化,他人への無関心と情緒性の希薄化等による非公式な社会統制機能の弱体化と,他方では,消費・享楽施設の集中と逸脱行動への刺激,富・成功への機会と裏腹なざ折・脱落の危険,激烈な競争社会における精神的重圧と無力・不安感など都市に内在する多くの犯罪促進要因によって説明されるのが一般であり,また,このような都市犯罪の特質は,社会全体への都市型生活様式・文化の拡散と定着によって,多かれ少なかれ,犯罪現象-全体の傾向に影響を及ぼすと言われている。特に最近は,マスメディアの発達によって,犯罪の模倣・流行化が顕著になり(例えば金融機関強盗),都市型犯罪は都会だけの現象ではなくなりつつある。更に,国際交流の活発化によって,都市型犯罪の国際化(例えばLSD濫用)の傾向さえ見られる。このような意味において,都市犯罪の動向は,犯罪動向全体の指標と見ることができる。そこで本章では,欧米先進工業諸国の大都市及び日本の3大都市の犯罪動向について,各国の公的統計書その他の公的資料によって国際比較を試みることとした。もちろん,各国では,基礎となる犯罪の種類や要件にも差異があり,統計方法も異なっているので,正確な犯罪現象の比較は困難であるが,概括的な犯罪の傾向と特色をは握することは可能と考える。取り上げた大都市は,ニューヨーク,シカゴ,ロサンゼルス,ロンドン,パリ,西ベルリン,ハンブルク,東京,横浜及び大阪の10都市である。