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 昭和55年版 犯罪白書 第1編/第3章/第1節 

第3章 電算化犯歴による累犯の分析

第1節 概  説

 法務総合研究所は,一昨年から,法務大臣官房秘書課電子計算機室の協力を得て,法務省において集中管理されているいわゆる電算化犯歴から,東京などに本籍を有する前科者を抽出して累犯現象の分析をしてきた(昭和53年,54年版犯罪白書参照)。従前は,業過を除外した犯歴について累犯現象の分析をしてきたが,本年においては,業過犯歴が全犯歴の過半数を占めることにかんがみ,業過犯歴者を含めた場合に,従来の累犯現象と相違する点があるかどうか見ることにした。対象者は,犯歴電算化対象庁の拡大に伴い,東京,大阪,神奈川,愛知,兵庫,福岡,茨城,京都,滋賀,広島,群馬,静岡,長野,三重,宮城,埼玉,千葉,奈良,和歌山,岐阜,山口,岡山,佐賀,香川の24都府県及び北海道の一部に本籍を有する前科者から無作為に抽出した50万人で,対象期間は,昭和23年1月1日から54年12月31日までの32年間である。なお,条例違反の前科及び道交違反による罰金前科の犯歴を除外したこと,並びに,併科刑又は複数刑の同時言渡しの場合は,そのうち最も重い1個の刑を,併合罪又は科刑上一罪については,おおむね法定刑の最も重い1個の罪名をそれぞれ選択し,1犯歴・1刑・1罪名となるように処理したことは,従来と同様である。
 50万人の犯歴総数は75万1,209犯であり,その犯歴数別分布はI-82表のとおりである。1犯者は37万769人で全人員の74.2%を占めるが,1犯者が有する犯歴は全犯歴の49.4%を占めるにすぎず,2犯者は人員で15.5%,犯歴では20.7%,3犯者は人員で5.1%,犯歴では10.1%,4犯者は人員で2.2%,犯歴では5.8%となっており,5犯以上の者は,人員で3.1%であるが,犯歴では14.0%を占めている。1人当たりの平均犯歴数は1.5犯である。これを昨年の犯罪白書で分析した業過犯歴を除外した50万人の対象者の場合と対比して見ると,業過を除外した場合の犯歴総数が86万5,174犯であるので,業過を含めた50万人の対象者の場合は,それより11万3,965犯(13.2%)少ないことになる。また,1犯者の占める比率について見ると,業過を除外した場合では,人員で69.3%,犯歴で40.1%であるのに対し,業過を含めた場合はそれぞれ74.2%,49.4%となっており,業過を含めた場合の方が業過を除外した場合をかなり上回っている。5犯以上の者について見ると,業過を除外した場合は,人員で5.8%,犯歴で23.5%であるのに対し,業過を含めた場合はそれぞれ3.1%,14.0%となっており,業過を含めた場合の方が業過を除外した場合を大きく下回っている。平均犯歴数について見ると,業過を除外した場合が1.7犯であるのに対し,業過を含めたそれは1.5犯と低くなっている。以上のとおり,業過犯歴を含めた場合は,業過犯歴を除外した場合と比べると,1犯者の占める比率が高く,5犯以上の者の占める比率が低いなど,顕著な相違が認められる。

I-82表 犯歴数別人員・犯歴分布

 業過を含めた50万人中,業務上過失致死傷(以下本節において「業過」という。)の犯歴のみの者は29万2,649人(58.5%),非業過のみの者は17万147人(34.0%),業過及び他の罪種を合わせ保有する者は3万7,204人(7.4%)となっている。次に,業過と非業過の犯歴数の内訳を見ると,業過が39万5,526犯(52.7%),非業過が35万5,683犯(47.3%)である。
 前科の内容を[1]死刑,無期懲役・禁錮及び有期懲役・禁錮の実刑(以下「実刑前科」という。),[2]執行猶予付懲役・禁錮(以下「執行猶予前科」という。),[3]罰金,拘留及び科料(以下「罰金等前科」という。)の3種類に分類し,犯歴保有数別にそれぞれの犯歴分布を見ると,I-83表のとおりである。総数で見ると,実刑前科は7万5,366犯(全犯歴の10.0%),執行猶予前科は8万2,091犯(同10.9%),罰金等前科は59万3,752犯(同79.0%)となっており,これを1犯者について見ると,実刑前科8,802犯(1犯者の犯歴総数の2.4%),執行猶予前科3万2,633犯(同8.8%),罰金等前科32万9,334犯(同88.8%)で,総数で見た場合と比較すると,実刑前科の比率が低く,罰金等前科の比率が高くなっている。

I-83表 犯歴数・刑種別犯歴分布状況

 次に,各犯歴に占める業過の比率について見ると,総数では,1犯者は67.5%,2犯者は56.5%,3犯者は41.7%,4犯者は29.3%,5犯以上の者は12.3%となっている。これを刑種別に見ると,実刑前科は3,860犯(全実刑前科の5.1%)であり,執行猶予前科では8,554犯(全執行猶予前科の10.4%),罰金等前科では38万3,112犯(全罰金等前科の64.5%)となってお.り,1犯者では,業過は,全実刑前科の18.2%,全執行猶予前科の15.8%,全罰金等前科の74.0%である。