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 昭和54年版 犯罪白書 第1編/第3章/第2節/5 

5 スカンジナビア諸国

  (1)概  況
 ここでは,スカンジナビア諸国のうち,ノルウェー,スウェーデン及びデンマークの3国について述べる。これら3国は,刑罰制度上共通する点が多く,刑罰制度に応報,威嚇としての意味が薄く,刑罰を犯罪の防止と犯罪者の社会復帰の一手段として位置づけている。そして,犯罪者を刑事施設へ拘禁することをできるだけ回避しようとする試みとして,罰金刑,宣告猶予,保護観察などの制度が大幅に活用されているほか,拘禁施設に入所した者に対しては,施設外処遇や仮釈放によって拘禁期間を短縮しようとする努力も見られる。また,3国とも,刑法に死刑の規定がないこと,犯罪者の処遇に福祉の思想が導入されており,未成年及び若年成人の犯罪者に対する児童福祉法の適用があることが特色である。なお,精神障害犯罪者に対する治療処分,危険な犯罪者に対する不定期間の拘禁の規定もある。このような刑事政策を端的に示したものとしてスウェ-デン刑法(1965年施行)があり,犯罪に対して制裁(Pafoljd)という語を用いているが,制裁には,罰金刑,拘禁刑,公務員犯罪に対する刑罰及び懲戒,条件付宣告,保護観察,少年刑務所収容,危険な累犯者に対する保安拘禁(Internering)及び少年,アルコール中毒者,精神障害者に対するそれぞれの特別措置がある。
 I-67表は,1976年におけるノルウェー,スウェーデン及びデンマーク各国の犯罪発生状況を示している。上記3国のうち,特にスウェ-デンでは,人口10万人に対する犯罪発生件数が8,302と他の2国に比してはるかに高いことが注目される。

I-67表 刑法犯発生件数及び検挙件数等(1976年)

  (2)拘禁刑
 ノルウェー刑法には,通常の拘禁刑(Fengsel)のほかに,名誉刑の性格をもつ禁錮刑(Hefte)の規定があるが,現在,その言渡しは行われていない。拘禁刑には,原則として21日以上15年以下とされている有期刑と終身刑とがある。また,1975年までは,14歳以上21歳以下で有罪判決を受けた者は若年犯罪者刑事法によって少年刑務所への拘禁刑を科すことができたが,現在この制度は廃止されている。1976年における刑事拘禁施設への入所人員は1万1,246人であり,そのうち4,720人は未決拘禁者である。

1-68表 起訴された者の3年間の成行きノルウェー  (1964年〜1970年)

 I-68表は,ノルウェー警察統計により,1964年から1970年までの間に起訴された者について,その後3年間に再び起訴された者の状況を示したものである。1968年に起訴された1万603人のうちの34.3%の者がその後3年以内に再び起訴されている。1964年に起訴された者のその後3年以内における再起訴累積率は29.2%であったが,1968年に起訴された者の場合は,この比率は34.3%へと上昇している。1969年については2年以内,1970年については1年以内の再起訴率しか資料上判明していないが,いずれについて見ても,1964年当時の場合と比べて,再起訴の比率は上昇している。
 スウェ-デン刑法には,成人に科する拘禁刑と18歳以上21歳未満の少年に科する少年刑務所への拘禁刑がある。成人に対する拘禁刑は,刑期1月以上10年以下の有期刑と終身刑とである。少年刑務所への拘禁刑は,教育と訓練を目的にした5年以下の不定期刑であり,そのうち施設内処遇の期間は3年以下と規定されている。1977年の拘禁刑による入所者は9,742人である。そのうち,刑期4月以下の者が71%,刑期5月以上1年未満の者が17%,刑期1年以上の者が12%である。罪名別では,酩酊運転が32%で最も多く,次いで多いのが窃盗の21%で,以下,暴行の13%,詐欺の7%と続いている。1977年における拘禁刑受刑者の1日平均収容人員は,3,645人である。また,同年における少年刑務所入所者は98人であり,そのうち40人(40.8%)は再入者である。
 デンマーク刑法には,拘禁刑と拘留刑(hefte)の2種類の自由刑がある。拘禁刑には,30日以上16年以下の有期刑と終身刑とがある。拘留刑は7日以上6月以下の刑で,主として酩酊運転,暴行,その他軽犯罪に科している。1976年における拘禁刑入所者は6,330人,拘留刑入所者は1,246人である。デンマークでは,1973年の刑法の一部改正により,少年刑務所は廃止された。
  (3)保安処分
 ノルウェー,スウェーデン及びデンマークにおける保安処分には,身柄の拘禁を伴うものと拘禁を伴わないものがある。
 1905年施行の現行ノルウー刑法第39条は,犯罪が心神の喪失又は耗弱の状態で行われ,しかも,精神障害のために重大な犯罪を将来起こすおそれがあり,公共の安全のために必要と認めるときは,裁判所は,2人の精神医の鑑定結果を考慮して,保安処分を言い渡すことができることを規定している。保安処分の種類として,住居の制限,警察官又は保護観察官による監督,禁酒,個人又は団体への補導委託,精神病院その他の治療施設・養護施設又は労役場への収容及び予防拘禁の6種類がある。通常,裁判所は,最初に身柄の拘禁を伴わない処分を言い渡し,遵守事項を守らないときは,一段と厳しい処分の言渡しを行っている。予防拘禁は,保安処分の中で最も厳しい処分であって,危険な犯罪により拘禁刑を終えた者又は拘禁刑執行中の者で,釈放後も同様に危険な犯罪を繰り返すおそれのある者に対して,拘禁期間の最長期を言い渡して刑務所に拘禁できる制度であり,拘禁期間は,実務では5年間としている。釈放に当たっては,5年間の保護観察を付し,この間に重大な犯罪又は遵守事項の違反のない場合は,保安処分は最終的に解除される。1977年における予防拘禁収容者1日平均人員は21人である。
 スウェーデン刑法第30章は,危険な犯罪者に対する保安拘禁について規定している。この処分は,刑期2年以上の拘禁刑に当たる行為をした者で,罪質,精神状況,その他から,不定期の拘禁に付することが重大な再犯を防止するために相当であると認められる者に科せられる。裁判所は,1年以上12年以下の期間内で施設内処遇の期間を定め,この期間を経過した後は,保安拘禁委員会の決定によって,保護観察に付することかできる。保護観察の期間は3年間である。1977年に保安拘禁による入所者は,約160人であり,そのうち136人は再入者である。
 スウェーデン刑法には,精神障害者の刑事責任に関する規定と責任無能力者に対する不可罰の規定とが,いずれも存在しないが,軽犯罪を犯したアルコール中毒者に対しては禁酒法(Lagen om nykterhetsvard)を,精神障害者には精神衛生法を適用し,治療が必要と認定された者は,それぞれの治療施設へ強制措置が命じられる。1976年,アルコール中毒者約260人と精神障害者約370人がこの措置を受けている。

I-69表 1969年に拘禁刑・保安拘禁・保護観察処分を受けた者の処分初回者・前歴者別その後5年間の再犯状況

 I-69表は,スウェーデン刑法により1969年に「制裁」を受けた者について,その後5年間の再犯状況を見たものである。再犯率の最も高い者は少年刑務所への拘禁刑を受けた者で,処分前歴のない者(処分初回者)の50.0%,処分前歴のある者(前歴者)の88.3%が再犯をしている。次いで再犯率の高いのが保安拘禁の処分を受けた者で,86.1%の者に再犯が見られる。他方,再犯率の低いのは,拘禁刑1月以上4月以下の処分初回者の場合の18.3%である。
 デンマークにおける危険な犯罪者に対する刑法上の措置は,殺人,強盗,放火,悪質な暴力犯,性犯罪などの危険な犯罪による有罪の判決が過去にあり,かつ,将来も同様の犯罪を犯すおそれの顕著な犯罪者に対して,通常の拘禁刑に代えて,期限を事前に定めず保安上の拘禁(Forvaring)を命ずることである。拘禁の解除又は変更は,検察官,施設長,法定保護者又は被拘禁者自身からの申請によって,裁判所が決定することになっている。デンマーク統計年鑑(Statistisk Arbog,1977)によると,保安上の拘禁に処せられた者は,1974年は3人,75年は2人であったが,76年には皆無であった。また,保安上の拘禁以外に,保安処分(アルコール中毒者・精神障害者等に対する治療施設への通院又は入院命令等)を受けた者は,1976年は111人である。