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 昭和54年版 犯罪白書 第1編/第3章/第2節/3 

3 イギリス

 イギリス(連合王国「イングランド及びウェールズ」)における累犯者の状況を,受刑者の前科(受刑することとなった有罪決定を除く過去に受けた有罪決定)の回数で見ると,I-60表のとおりである。1977年に刑務所に入所した21歳以上の者は3万1,171人であるが,このうち前科の有無及び回数が判明している者2万7,351人について見ると,前科がある者は2万5,196人で92.1%を占め,しかも,6回以上の前科を有する者が1万8,203人で66.6%を占めている。1977年以前の5年間について見ても,刑務所入所者の大半は犯罪を重ねている者によって占められている。

1-60表 新受刑者の前科数イギリス  (1973年〜1977年)

1-61表 刑務所釈放者の再犯状況イギリス  (1972年〜1974年)

 次に,刑期3月を超える者で刑務所を出所した者の再犯(再度の有罪決定)状況について,出所時から2年間にわたる成行調査によって見ると,I-61表のとおりである。1974年に出所した者にあっては,3月以内に再犯をした者が10.2%,3月を超え6月以内が10.2%,6月を超え1年以内が14.4%,1年を超え2年以内が15.1%であって,1年以内に34.7%,2年以内に49.8%が再犯している。この傾向は,1973年及び1972年に出所した者においてもほぼ同様であって,大きな変化は見られない。
 1974年に刑務所を出所した刑期3月を超える男子について,刑期別に2年以内の再犯状況を見ると,I-62表のとおりである。出所後2年以内に再犯した者は,刑期が6月以下の者では58.1%であるが,刑期が4年を超え10年以内の者では37.4%,刑期が10年を超える者では16.2%となっている。刑期の長い者は,刑期が短い者に比べて,釈放後のいずれの時点においても再犯率は低くなっている。

I-62表 1974年の刑務所釈放者(男子)の再犯状況イギリス  (1974年)

 イギリスにおいては,累犯者対策における法制上の措置として,刑の加重(extended term of imprisonment)の措置が執られている。すなわち,常習累犯者(persistent offenders)と認められる者については,当該犯罪に対して規定された最高刑を超えた刑期を言い渡すことができる。ただし,加重刑の限度は,最高刑が5年未満の場合は5年まで,同5年以上10年未満の場合は10年までとされている。しかし,要件は厳しく,[1]2年以上の懲役刑で処罰しうる犯罪について有罪の決定を受けた者で,[2]21歳以後に2年以上の懲役刑で処罰しうる犯罪に関して3回以上の有罪の決定を受けたことがあって,その刑期の合計が5年以上であり,[3]そのうち1回が8年以上の刑又は2回が各2年以上の刑であり,[4]直前の刑の執行終了後3年以内に罪を犯した場合であって,[5]かつ,従前の素行及び将来犯罪を犯す可能性を考慮した結果,長期にわたって公衆から隔離するのが相当と認められる者に限られている(CriminaI Justice Act1967年第37条)。
 刑の加重は,1967年から実施されたが,その刑期別及び罪種別言渡し人員は,I-63表及びI-64表のとおりである。1967年から1977年の間において最も言渡し人員が多かったのは,1970年の129人であり,1976年には14人,1977年には16人にすぎない。

I-63表 累犯者に対する加重刑の刑期別言渡し人員イギリス  (1967年〜1977年)

I-64表 累犯者に対する加重刑の罪種別言渡し人員イギリス  (1967年〜1977年)

 刑の加重の措置が執られる以前においては,1948年から1967年までの間,累犯者対策として,予防拘禁(preventivedetention)及び矯正訓練(corr-ectivetraining)の制度が執られていた。予防拘禁は,5年以上14年以下の範囲内で裁判所が定めた期間拘禁するもので,その要件は,[1]30歳以上の者で,[2]2年以上の懲役刑によって処罰しうる犯罪について有罪の決定を受け,[3]17歳以降に2年以上の懲役刑で処罰しうる犯罪に関して3回以上の有罪の決定を受けたことがあって,うち2回は懲役刑その他の収容処分を言い渡されており,[4]かつ,社会防衛の観点から長期にわたる拘禁が相当と認められるものとされていた。矯正訓練は,2年以上4年以下の範囲内で裁判所が定めた期間収容するもので,その要件は,[1]21歳以上の者で,[2]2年以上の懲役刑によって処罰しうる犯罪について有罪の決定を受け,[3]17歳以降に2年以上の懲役刑で処罰しうる犯罪に関して2回以上の有罪の決定を受けたことがあり,[4]かつ,本人の改善及び犯罪の防止の観点から収容訓練が相当と認められるものとされている。予防拘禁及び矯正訓練の言渡し状況は,I-65表のとおりである。

I-65表 予防拘禁及び矯正訓練の言渡し人員の推移イギリス  (1948年〜1967年)

 累犯者対策として採用された予防拘禁及び矯正訓練は,言渡し人員の減少を一因として1967年に廃止され,次いで刑の加重が採用されたが,言渡し人員が極めて少なく,この観点からは,制度が有効に作用しているとは言い難いように思われる。