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 昭和54年版 犯罪白書 第1編/第3章/第1節 

第3章 国際的視野から見た累犯問題

第1節 概  説

 第1章で述べたように,近時における我が国の犯罪状況は,窃盗,横領,覚せい剤事犯,金融機関強盗の増加など警戒を要する面も見られるが,全般的には,平穏に推移していると言えよう。しかし,累犯現象に目を転ずると,ここ数年,刑法犯検挙人員に占める再犯者率は約34%,刑法犯通常第一審有罪人員(略式命令を含まない。)中に占める前科者率は約64%,同じく刑法上の累犯者の占める比率は約20%,新受刑者中に占める再入者の比率は約58%,同じく刑法上の累犯者の占める比率は約51%であり,また,従来から言われているように,殺人・放火・強姦等の重大犯罪を繰り返す社会的に危険な犯罪者が毎年ほぼ一定数存在し,更に,ひん回累犯者による窃盗・詐欺等の犯罪の累行が依然として跡を絶たないなどの事実を見ると,犯罪における累犯問題の重要性は,極めて大きいと言わなければならない。そこで,この白書では,昭和53年版犯罪白書(副題「累犯の実態と対策」)で取り上げた累犯問題の解明作業を継続し,これを補完する趣旨で,累犯問題を国際的視野から見直し,また,これと関連して,コンピュータによる犯歴データの新しい分析結果の紹介などをすることとした。
 累犯に関する国際資料は,西ドイツ,フランス,イギリス及びアメリカの欧米先進4箇国並びに特色ある累犯対策を有するノルウェー,スウェーデン及びデンマークのスカンジナビア3箇国を主な対象とし,ほかに,アジア諸国についても,統計資料の比較的整備されている香港を主とし,インド,スリランカ,マレーシア,タイ,シンガポール及びイラクについて若干言及した。
 いずれの国についても,資料は,原則として公的な統計書に限定し,また,入手できる限りの最新の資料に基づいた。ただし,各国の累犯統計の数字をできるだけ同一又は近接する年次で表示する必要上,新しい年次の統計があっても,やや古い統計を使用した場合もある。いうまでもなく,各国は,刑事司法制度を異にし,国情も違うため,統計上のデータを単純に比較して結論を出すことはできないが,大体の傾向は理解できるものと思われる。
 なお,累犯の概念については,必ずしも刑法その他の法律上のそれに限ることなく,逮捕歴,前科歴,矯正施設入所度数などによって示される「犯罪を繰り返した事実ないしその傾向」というような広義の累犯概念によることとする。