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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第五章/二/4 

4 応急の救護・援護

(一) 応急の救護の立前

 前述のように,保護観察の通常の方法として,医療の援助,宿所の斡旋,就職の援助,帰住の援助など本人の具体的事情に応じて必要な補導援護の措置が行なわれているが,しかし,保護観察に付されている者が,負傷・疾病のため,または適当な仮泊所・宿所がないため,または職業がないために,更生を妨げられるおそれがある場合には,保護観察担当者による通常の補導援護だけにとどめないで,応急の措置をとる必要がある。法律は,このような場合には,保護観察所長がみずから応急の救護(執行猶予者保護観察法では「援護」という)をしなければならないことになっている。応急の救護は,その要否を保護観察所の長が裁定し,かつ,その実施を担当する。
 応急の救護は,次のように二段構えで行なわれることになっている。
 第一の段階は,公共の衛生福祉施設の活用である。保護観察所の長は,保護観察中の者について応急救護の必要を認めたときは,まず公共の衛生福祉施設の利用を考え,必要な医療,食事,宿泊,職業その他の救護が即刻本人に与えられるように,公共の機関施設に連絡斡旋をしなければならない。―実情は,しかし,応急救護がこの線で行なわれる場合は少ない。公共の衛生福祉施設の協力は,可能な限りはすでに通常の補導援護の段階で実現されているので,保護観察所の長の連絡斡旋によって,さらにこれを獲得する余地は多くないのである。必要な応急救護が公共の衛生福祉施設から得られない場合には,第二段として,保護観察所の予算でこれを行なうことになる。現状は,前記のような事情の結果,応急救護はほとんどつねにこの第二段の方法で行なわれている。

(二) 応急の救護・援護の実情

 保護観察所の予算で行なう応急救護の措置は,食事給与,衣料給与,医療援助,帰住援助(旅費給与に鉄道運賃割引証の給与をともなう),食事付宿泊供与,宿泊供与,および補導(相談補導)の七種である。このうち,食事給与,衣料給与,医療援助,帰住援助の四措置は保護観察所が自庁で行ない(「自庁保護」という),食事付宿泊供与と宿泊供与とは,更生保護会または適当な個人または地方公共団体に委託して行なう(「委託保護」という)。
 保護観察対象者が応急の救護・援護を受けたい旨申し出た回数は年間に四万近くにも達し,この数には同一人があらためて申し出れば,そのつど計上されているから延人員ないし回数であるが,これを年間の保護観察対象者人員数(前年から引き続き保護観察中のものと,本年新たに保護観察に付された者との合計)とくらべると,対象者一〇〇人につき平均二三・九回の割合で申出がなされていることになる。
 ここで,保護観察対象者の各種別に年間の人員と申出の数とを対照して示したものが,VI-46表である。右に述べた保護観察対象者全員についての割合(一〇〇人について平均二三・九回)を基準として対象者の種別に申出状況の指数を算出すると,家庭裁判所で保護観察処分に付された者,刑事裁判所で保護観察付執行猶予に付された者の場合はいずれも指数が低いのに反して,仮釈放の者,なかでも刑務所から仮出獄されたものと婦人補導院から仮退院した者の場合は救護・援護を申し出る指数が大きく,少年院から仮退院した者の指数も家庭裁判所の保護観察処分の者にくらべるといちじるしく大きい。概してパロールの対象者はプロベーションの対象者より生活に困窮していることが容易にわかる。

VI-46表 保護観察種類別の対象者数と救護・援護申出回数等(昭和34年)

 住居もなく,食事もできない困窮者には,救護・援護の措置として食事付宿泊供与が行なわれる。この措置を受けた回数(件数ではない)もVI-46表に示すとおりであり,右に述べたと同様な方法で指数に換算してみるとやはりパロールの対象者,特に仮出獄者の指数はいちじるしく大きく,少年院仮退院の者がこれに準じていることがわかる。
 応急救護の各措置別の回数,件数はVI-47表のとおりである。

VI-47表 応急の救護・援護措置別回数と件数等(昭和34年)

 食事付宿泊供与の日数は一人平均一三日余となっているが,二泊,三泊という短い期間の救護も数多く行なわれている。宿泊供与は,食事付宿泊供与に続いて行なわれるのが普通である。その平均日数は一四日余となっている。「補導」は,食事付宿泊供与または宿泊供与の期間中これと並行して行なわれる。そして,食事付宿泊供与または宿泊供与のあいだ補導を受けていた者が,その委託期間が切れてもなお今までの委託先に残留している場合には,「継続補導」の委託が行なわれている。
 委託保護の場合に保護観察所から受託者に支払われる委託費は,次のとおりである。すなわち,食事付宿泊費は被保護者一人一日につき一級地九〇円,二級地八一円,三級地七〇円(ただし冬期は二円から一〇円までの加算がある),宿泊費は一級地二三円,二級地二〇円,三級地一八円(冬期加算は前記と同じ),補導費は一人一カ月につき三〇〇円。なお,食事付宿泊供与または宿泊供与の委託をした場合には,別に,被保護者一人につき一日六九円以下四八円以上の委託事務費が支払われている(昭和三五年一二月現在)。委託保護の委託先は主として更生保護会である。
 自庁保護の各措置は,いずれも一人一回の救護措置であるが,同一人に対して二種以上の措置があわせて行なわれることも多く,またくり返して行なわれることもある。
 応急の救護・援護は,保護観察中の対象者が生活の危機に陥った場合にこれを救済する特殊措置であって,その措置は,危機の救済という程度をこえることを許されない。対象者の生活の実態をみると,積極的に本人の更生を推進するためには,このような応急の救護だけでは足りない場合が多いので,前述のように補導援護上の金品の給貸与が行なわれているのが,保護観察の実情である。対象者に対する物質的援助が単に「応急の救護」にとどまるのが相当であるかどうかは,再検討を要する問題であると思われる。