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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/6 

6 保護観察付執行猶予の言渡率

 執行猶予者に対する保護観察は,刑法の一部改正により昭和二九年七月一日から実施された。それは二種に分かれる。その一は,初度目の執行猶予を言い渡す場合に保護観察付とするものであり,その二は,前に執行猶予の言渡を受けた者がその猶予期間内に再び犯罪を犯し,これに再度目の執行猶予をつける際に,保護観察付とするものである。前者について保護観察をつけるかどうかは,裁判所の裁量にゆだねられているのに対して,後者の場合には,必ず保護観察をつけなければならないとされている。
 保護観察は,保護観察官または保護司が執行猶予者と緊密な連絡を保ちながら,適宜これを補導援護し,執行猶予者に本来自助の責任があることを認めつつ指導監督し,執行猶予者のすみやかな更生改善をはかるためにもうけられた制度であって,英米のプロベーションに相当するものである。かように,執行猶予者の更生援助のための制度であるから,理想論からいえば,すべての執行猶予者にこれが付せられることか望ましいものとしなければならないが,現実的にみると,保護観察官や保護司が執行猶予者を監督しているということ,このために執行猶予中であることが明るみにでやすいこと,また,保護観察の期間中は「善行を保持すること」が遵守事項として科せられており,これに違反すると執行猶予が取り消されるおそれがあること,一カ月以上の旅行または転居については,保護観察所に届出を要することなどの規制があるため,執行猶予者にとっては歓迎されない処遇ともいえるのである。そこで,法は,保護観察をつけるかどうかを裁判所の裁量にゆだねることとし,特に再度目の執行猶予を言い渡す場合に限って,必要的にこれをつけなければならないものとしているのである。
 検察統計年報によって,昭和三〇年から昭和三四年までの五年間につき,執行猶予確定人員の総数のうち,保護観察付となったものがどの程度にあるか,また,保護観察付を裁量的(初度目の執行猶予者に対するもの)と必要的(再度目のそれに対するもの)とに分けてその比率を示し,あわせて昭和三三年と昭和三四年については刑法犯,準刑法犯に限ってそれぞれの比率をみると,II-23表のとおりである。

II-23表 執行猶予者中保護観察付人員と率等

 これによると,執行猶予確定人員の実数は,昭和三一年以降漸減の傾向にあるといえるが,保護観察付のものは逆に昭和三二年以降漸増の傾向を示し,昭和三四年には執行猶予確定人員の一八・三%に保護観察がつけられている。保護観察付のものを必要的と裁量的に分け,必要的保護観察の傾向をみると,その実数は昭和三一年以降漸減の傾向にあり,その執行猶予確定人員のうちで占める比率は,五%ないし六%であるが,裁量的保護観察は,その実数において昭和三二年以降漸増の傾向をたどっているとともに,その執行猶予確定人員のうちで占める比率も,昭和三二年の九・一%から昭和三四年の一二・六%と増加を示しているのである。これを刑法犯と準刑法犯とについてみると,保護観察付執行猶予が執行猶予確定人員総数のうちで占める比率は約二〇%で,全事件の場合に比してやや高く,また,必要的,裁量的ともに,全事件に比してやや高率を示している。
 ちなみに,司法統計年報によって,保護観察を必要的と裁量的に分けてその比率をみると,検察統計年報の数字とやや異なるが,II-24表に示すとおり,両者の比率は,昭和三〇年には三三対六七であったものが,昭和三四年には三一対六九となっているのである。

II-24表 「必要的」・「裁量的」保護観察付執行猶予人員と率(昭和30〜34年)

 次に,刑法犯の主要罪種について,通常第一審手続で執行猶予の言渡があったもののうち,保護観察付の占める比率を示すと,II-25表のとおりである。まず,刑法犯で保護観察付の占める平均比率を二〇%とすると,この平均率を上回るものは,強盗の三五・七%(昭和三四年,以下同じ),強姦の三四%,恐喝の二九・三%,強姦致死傷の二六・三%,傷害の二一・九%,窃盗の二〇・九%である。これに反して平均率を下回るものは,業務上過失致死傷の〇・八%,公文書偽造の六・八%,業務上横領の一〇・四%,放火の一〇・八%,傷害致死の一一・二%,賍物故買等の一一・四%,殺人の一二・三%,公務執行妨害の一三・二%,横領の一五・七%,詐欺の一八・〇%である。強姦,強姦致死傷,・強盗のような悪質犯について保護観察付が高率であるのは,これらに執行猶予をつける場合には,その更生と改善をはかるために,保護観察付として保護司の補導監督にゆだねるという配慮がはたらくためと思われるが,同じく悪質犯であっても殺人,傷害致死,放火といった重大犯罪について低率を示すのは,この罪種の犯人はその性格上必ずしも保護観察に付するのに適さないと認められる場合が少なくないためと思われる。

II-25表 主要罪名別・通常第一審執行猶予確定人員中の保護観察付執行猶予人員と率等(昭和33,34年)

 さらに,保護観察を必要的と裁量的とに分け,主要罪種別にみると,全刑法犯における必要的と裁量的の割合はほぼ三対七であるが,この割合を上回って裁量的保護観察が多い罪種は,放火,強姦,強姦致死傷,殺人,傷害致死,強盗等で,いずれも九〇%以上を占めている。これは,必要的保護観察が一年以下の懲役禁錮を言い渡す場合に限ってつけられることになっているから,この種の重大犯罪については,必要的保護観察はこれをつける余地が少ないためである。また,財産罪についてみると,裁量的保護観察は,恐喝が八〇・六%,業務上横領が七六・二%と高率を示すに反して,賍物罪の五四・五%,横領の五八・六%,窃盗の六四・五%は,いずれも平均率を下回っているが,これは,低率を示す罪種について再度目の執行猶予を言い渡す場合が少なくないことを物語っているものといえる。