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 昭和36年版 犯罪白書 第一編/第五章/四 

四 生命犯についての比較

 わが国の犯罪現象を外国のそれと比較する場合には,窃盗,傷害等のような犯情の軽いもの,または多数発生するものについては,その比較が困難である。被害の届出が正確に行なわれているかどうか,また,検挙が徹底して行なわれているかどうかによって統計の正確度に相違をきたすからである。しかし,殺人,傷害致死のような生命犯については,統計上の暗数も少なく,未検挙事件も比較的少なく,訴追制度や裁判手続が相違しても,犯人が検挙されれば,原則として起訴され有罪の裁判がなされるから,有罪人員の統計によって,ほぼ概括的な比較をすることができるであろう。
 I-48表49表50表51表は,生命犯について日独英三国の有罪人員等を年齢層別に示したものであり,I-22図は,そのうち殺人をグラフとしたものである。西ドイツの謀殺(Mord)と故殺(Totschlage)の計は,日本の殺人(嬰児殺を除く,以下同じ)と強盗殺人の計にあたり,イギリスの謀殺(murder)は,ほぼ日本の殺人と強盗殺人の計にあたるので,これらについてI-22図で三国を比較した(ただし,わが国の強盗殺人は,統計上強盗致死を分離できないのでこれを含む)。年齢層別には,三段階に区分した。西ドイツでは,少年は一四才以上一八才未満であるが,一八才以上二一才未満を青年として一般成人と区別している。イギリスでは,少年は一四才以上一七才未満であるが,一七才以上二一才未満について特別の取扱いをしている(この両国の少年裁判制度については,昭和三五年度版犯罪白書三〇七頁以下および三一三頁以下参照)。そこで,これらの青年をわが国の一八才以上二〇才未満の年長少年と対比した。なお,わが国では,英,独であれば当然有罪裁判を受けると思われるものが,成人であれば起訴猶予に,少年では不開始,不処分となっている場合があるので,この分も統計に加えてその区分を明らかにした。もっとも,不開始,不処分のなかには,無罪にあたるものが含まれているが,統計上分離できないので,その数も加えられている。

I-48表 殺人の年齢層別・処分別有罪人員と率(日本)(昭和33年)

I-49表 強盗致死の年齢層別・処分別有罪人員と率(日本)(昭和33年)

I-50表 謀殺の年齢層別有罪人員と率(イギリス)(1958年)

I-51表 謀殺・故殺の年齢層別有罪人員と率(西ドイツ)(1957年)

I-22図 殺人の年齢層別有罪人員の率(日本・イギリス・西ドイツ)(1958年)

 I-22図によって,わが国の殺人がイギリスおよび西ドイツと比較して,各年齢層を通じきわめて多いということができるであろう。特にわが国とイギリスとの間ではその差が大きく,わが国の起訴猶予,不開始,不処分を除外しても,わが国の成人はイギリスのそれの八・三倍,年長少年はイギリスのそれの一〇倍である。西ドイツについても,各年齢層を通じてわが国に比しその三倍から五倍程度の倍率を示している。
 このように,イギリスにおける殺人がきわめて少ないことは,種々の原因が考慮されると思うが,イギリスでは一般に裁判が非常に迅速で,しかも,殺人の量刑がきわめてきびしいことの影響を過少評価してはならないであろう。