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 昭和53年版 犯罪白書 第3編/第5章/第2節 

第2節 累犯者の処遇

 累犯防止の施策ないしは累犯者の処遇対策の検討に資する趣旨で,以下,若干の問題点の指摘を試みる。
 刑事司法について言えば,現状においても諸国に比べて著しく高い犯罪検挙率を更に高め,迅速な検挙を一層促進することが,まずもって肝要であろう。それは,犯罪現象一般を抑止するにとどまらず,累犯ないし常習犯の抑止にも,大きく影響を及ぼすからである。次に,主として初犯者の処遇対策としての起訴猶予及び刑の執行猶予の適正な運用が,累犯防止上果たしている役割には注目に値するものがあると言えるのであり,今後ともその十全な運用が期待される。更に,量刑は,現行法制上累犯対策としてとりわけ重要な意味を持つと言わなければならないが,一般予防及び特別予防の観点はもとより,更に,矯正及び更生保護の分野における犯罪者処遇についてまで考慮の行き届いた適正な量刑が,今後とも一層必要とされるであろう。
 矯正及び更生保護については,まず,最近における矯正処遇上の受刑者分類処遇の推進に照らしても,その処遇分類の一層の徹底が望まれよう。犯罪傾向が進んでいると認められるいわゆるB級受刑者群の中にも,その人格特性及び環境状況から,更に幾つかの主要な類型を見いだし得るのであって,これに応ずる処遇の個別化が図られなければならないであろうし,他方,また,B級受刑者についても,その処遇の発展に応じて,開放的処遇として現に効果を上げている構外作業場の例に見られるような実践的試みが進められてよいであろう。それに続く適時の仮釈放と強力な保護観察の実施による社会復帰の促進が期待されることは言うまでもないのであって,そのためにも,更生保護の充実は,累犯の処遇対策の重要な一環であると言えよう。
 次に,各種の累犯者の処遇について考えよう。
 前章で述べたように,累犯者の中には,重大な人身犯を繰り返す社会的に危険な常習的犯罪者の典型があり,また,精神障害によりこれまた重大な犯罪を累行する精神障害累犯者がある。他方において,大小の財産犯を反復する者の顕著な例として窃盗・詐欺の累犯者があり,更に,その特異な反社会的習俗から累犯に密接に関連する暴力団関係者の存在がある。これらの数種の累犯者は,その犯罪態様,人格特性,環境状況等の各面から見て,特徴のある主要な類型を選んだというにとどまるが,累犯の処遇対策上これに焦点を当てることの意義は,小さいとは言えないであろう。
 まずもって,窃盗・詐欺の累犯者について考えると,その中には,多数回の犯罪を行い,かつ,多大の被害をもたらすところの職業的犯罪者もないではないが,その数はそう多いものではなく,その数において多いのは,いわゆる「やっかいな微罪の累犯者」ないし適切な保護を欠くことによる累犯者である。これらの類型に属する者は,一般に家庭的・社会的に問題が多く,しかも,刑期は概して短いのであり,矯正及び更生保護の面で処遇上苦慮することが少なくない。しかし,これらの者に対しても,刑期の許す限りにおいて,矯正処遇上の処遇分類を徹底させ,十分な生活指導を行うとともに,保護の面に留意し,更に仮釈放後の保護観察による監督・援助によって,その社会的更生を期する必要があるであろう。
 次に,暴力団関係累犯者については,それが犯罪現象上占めている重大性から,刑事司法,矯正及び更生保護の各処遇分野において,多くの考慮が払われている。その処遇対策としては,やはり,迅速かつ徹底した検挙,適正な量刑などとともに,矯正処遇上の各種の生活指導,正業を得させるための職業訓練,更生保護上の強力な監督・援助による暴力団組織からの離脱の確保等が,その要点となるであろう。
 問題は,危険な常習的犯罪者及び精神障害累犯者である。この両類型は,現実には重なり合うことも少なくないが,危険な常習的犯罪者については後に改めて述べることとして,まず,精神障害累犯者については,刑事司法,矯正及び更生保護の各処遇分野において考慮すべきことが少なくない。既に指摘したように,殺人・放火というような重大犯罪の検挙人員中に占める精神障害者の割合は相当高率であり,また,精神障害者の再犯率は高く,その再犯期間も短いなど問題が多いのであるが,その根本的な解決策としては,精神障害犯罪者に固有の処遇制度の新設が考えられるのであって,これは,ヨーロッパ諸国の法制には広くその例が見られ,採用していない例のほうがむしろ少ないと言える。我が国において,昭和49年5月29日の法制審議会総会決定に係る改正刑法草案が採用している精神障害犯罪者に対する治療処分及びアルコール・薬物中毒犯罪者に対する禁絶処分の二種類の保安処分は,そうした処遇制度の典型的なものとも言えるであろう。その治療処分は,責任無能力又は限定責任能力の状態にある精神障害者が禁固以上の刑に当たる行為をした場合において,治療及び看護を加えなければ将来再び禁固以上の刑に当たる行為をするおそれがあり,かつ,保安上必要があると認められるときに言い渡すことができるものとする。治療処分に付された者は,保安施設に収容して,治療及び看護のために必要な処置を行い,その収容の期間は,原則として3年であるが,必要な場合には2回を限度として2年ごとに更新することができ,ただ,死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役に当たる重大な行為をするおそれが顕著な者については,それ以上の更新をも認める。他方,禁絶処分は,飲酒又は薬物使用の習癖のある者がその習癖のため禁固以上の刑に当たる行為をした場合において,その習癖を除かなければ将来再び禁固以上の刑に当たる行為をするおそれがあり,かつ,保安上必要があると認められるときに言い渡すことができるものとする。禁絶処分に付された者は,保安施設に収容し,飲酒又は薬物使用の習癖を除くために必要な処置を行い,その収容の期間は,原則として1年であるが,2回に限りこれを更新することができる。治療処分又は禁絶処分の言渡しを受けて保安施設に収容された者が,期間満了によって退所し,又は行政官庁の処分による仮退所を許されたときは,2年間の療護観察に付し,なお,仮退所者については,再収容も認めている。