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 昭和53年版 犯罪白書 第3編/第4章/第2節 

第2節 精神障害犯罪者の累犯

 法務総合研究所では,犯罪を犯した精神障害者の再犯状況の実態をは握するため,精神診断室を有する全国の9地方検察庁及びその対応裁判所等で昭和48年中に精神診断・精神鑑定に付された者のうち,精神障害又はその疑いがあると診断された者の合計562人(男526人,女36人)について,警察庁の指紋原票によって,53年3月までの追跡調査を行った。
 この調査対象者の昭和48年調査時(以下「前調査時」という。)における罪名別精神診断結果は,III-61表に示すとおりである。罪名別では,窃盗133人(23.7%),傷害・暴行111人(19.8%)が多く,以下,詐欺,殺人と続いている。精神診断別では,精神分裂病が155人(27.6%)と最も多く,次いで,アルコール中毒等が129人(23.0%),精神薄弱が79人(14.1%),てんかん・器質障害が61人(10.9%)の順になっている。
 前調査時の年齢構成は,20歳未満が6人,20歳以上24歳以下が90人,25歳以上29歳以下が98人,30歳以上39歳以下が200人,40歳以上49歳以下が130人,50歳以上59歳以下が32人,60歳以上が6人である。
 犯罪を犯した精神障害者の再犯状況(この節において「再犯」とは,前調査時の検察官の処分又は裁判言渡しの日から,昭和53年3月3日の追跡調査時までの間に判明した逮捕歴をいう。したがって,追跡調査期間は4年ないし5年である。)について,前調査時の精神診断別,罪名別,年齢別,精神衛生法による措置入院の該当・非該当別等の側面から検討する。
 精神診断別に再犯状況を見たのが,III-62表である。再犯を犯した者は,調査対象者562人のうち272人(48.4%)である。更に,精神診断別に再犯者数・再犯率を見ると,アルコール中毒・異常酩酊では129人中83人(64.3%),薬物中毒では35人中22人(62.9%),精神薄弱では79人中48人(60.8%)となっていて,いずれも再犯率が高く,その他,心因反応では11人中3人(27.3%),精神分裂病では155人中47人(30.3%),そううつ病では23人中8人(34.8%)となっている。

III-61表 犯罪を犯した精神障害者の罪名別精神診断

 罪名別に再犯率の高いものから順に再犯者数とその比率を見ると,詐欺46人中35人(76.1%),恐喝9人中6人(66.7%),強盗18人中11人(61.1%),窃盗133人中77人(57.9%)などであり,特に,詐欺の場合,再犯者35人のうち9人について5回以上の再犯があった。なお,その他の罪名の再犯者数・再犯率は,殺人では38人中2人(5.3%)で,その再犯率は最も低く,放火では34人中7人(20.6%),強姦・わいせつでは26人中10人(38.5%),傷害・暴行では111人中51人(45.9%)である。

III-62表 犯罪を犯した精神障害者の精神診断別再逮捕回数

 これを年齢層別に見ると,前調査時の年齢で50歳代の者32人中18人(56.3%),30歳代の者200人中107人(53.5%),40歳代の者130人中68人(52.3%)となっていて,いずれもその再犯率は50%を超え,以下,25歳以上29歳以下の98人中44人(44.9%),20歳以上24歳以下の90人中32人(35.6%)の順である。なお,20歳未満では6人中2人,60歳以上では6人中1人に再犯が認められる。60歳以上を除いて見ると,30歳以上のほうが29歳以下より再犯率が高くなっている。
 前調査時における精神衛生法による措置入院の該当・非該当別に再犯状況を見たのが,III-63表である。犯罪を犯した精神障害者の中で,措置入院非該当(治療不要)とされた47人中の31人(66.0%)及び精神衛生法に基づく通報もなされなかった273人中の153人(56.0%)に再犯が認められる。犯罪を犯した精神障害者に対する処遇のあり方について,なお検討すべき問題があるように考えられる。また,措置入院となった145人中の47人(32.4%)に再犯があり,更に,その47人のうち9人については,前記追跡調査期間中に5回以上の再犯があった。これは,アフター・ケアの問題として検討されるべきであろう。ちなみに,この9人の精神診断は,精神分裂病が3人,アルコール中毒が2人,そううつ病,精神薄弱,精神病質及び精神障害の疑いが各1人となっている。

III-63表 措置入院の該当・非該当別再逮捕回数

 次に,前調査時における前科・前歴の有無と再犯との関係について見ると,調査対象者562人のうち前科・前歴なしは162人(28.8%),前科・前歴ありは400人(71.2%)であって,それぞれの再犯率は,前科・前歴なしが162人中32人の19.8%,前科・前歴ありか400人中240人の60.0%となっている。
 前科・前歴のある者のほうがはるかに高い再犯率を示しているが,中でも,懲役・禁錮の実刑の前科を有する者は,209人中の144人(68.9%)の再犯で,その再犯率が最も高い。また,数は少ないが,少年院歴のある者6人のうち5人に再犯が見られる。
 ここで,精神障害者の累犯の特性を累犯の類型によって見てみよう。前調査時に前科・前歴がなく,かつ,前記追跡調査期間中の再犯もない者128人を除いた434人について,その前科・前歴の罪名全部と前調査時から追跡調査時までの再犯の罪名全部との関係を総合して,単一型(同一罪名の犯罪のみを繰り返している者),同種型(同種の犯罪を繰り返している者),異種型(2種の犯罪を繰り返している者)及び多種型(3種以上の犯罪を繰り返している者)の4類型に当てはめてみると,III-64表に示すとおり,単一型は47人(10.8%),同種型は64人(14.7%),異種型は196人(45.2%),多種型は127人(29.3%)となっている。この累犯の各類型の構成比を基準として,これより比較的高率である精神診断を見ると,単一型では精神薄弱(20.0%),同種型では精神薄弱(23.1%),てんかん・器質障害(21.7%)及び精神分裂病(20.2%),異種型では精神障害の疑い(56.5%),そううつ病(54.5%),アルコール中毒・異常酩酊(52.5%)及び精神分裂病(50.5%),多種型では薬物中毒(60.0%)及びアルコール中毒・異常酩酊(36.1%)となっている。

III-64表 犯罪を犯した精神障害者の精神診断別累犯の類型

 次に,前記追跡調査期間中に再犯のあった者272人のうち,前調査時の処分として,懲役・禁錮の実刑の裁判言渡しを受けたもの,精神衛生法による措置入院となったものなど,施設収容があり,しかも,その出所ないし退院日が確認できないもの100人を除いた172人についての再犯期間(この節において「再犯期間」とは,前調査時の検察官の処分又は裁判言渡しの日から,その後の逮捕による指紋採取日までをいう。)を見ると,3箇月未満が42人(24.4%),3箇月以上6箇月未満が20人(11.6%),6箇月以上1年未満が27人(15.7%),1年以上2年未満が33人(19.2%),2年以上3年未満が28人(16.3%),3年以上が22人(12.8%)となっていて,再犯期間の確認ができた再犯者172人のうち89人(51.7%)が1年未満で再犯に陥っている。これを,精神診断別に,1年未満で50%を超えているものを見ると,薬物中毒(15人中9人,60.0%),アルコール中毒・異常酩酊(58人中34人,58.6%),精神薄弱(36人中20人,55.6%)などであり,他方,1年未満で再犯率が最も低いのは精神分裂病(24人中7人,29.2%)である。

III-65表 犯罪を犯した精神障害者の精神診断別再犯の処分結果

 また,再犯者272人のうち,処分不明の2人を除いた270人の再犯についての処分結果(2回以上の処分を受けている場合は重いほうを取る。)は,III-65表に示すとおり,起訴猶予60人(22.2%),その他の不起訴8人(3.0%),罰金刑41人(15.2%),懲役・禁錮の執行猶予17人(6.3%),懲役・禁錮の実刑109人(40.4%),その他処分未了者等35人(13.0%)となっていて,懲役・禁錮の実刑が最も多く,次いで,起訴猶予,罰金刑の順になっているが,精神診断別に見ると,精神分裂病では起訴猶予が45人中15人(33.3%)と最も多く,次いで,懲役・禁錮の実刑,罰金刑の順であり,てんかん・器質障害,アルコール中毒・異常酩酊,精神病質などでは懲役・禁錮の実刑に次いで罰金刑,起訴猶予の順になっている。