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 昭和52年版 犯罪白書 第3編/第3章/第3節/2 

2 矯  正

 女子の矯正施設としては,女子刑務所,女子少年院及び婦人補導院があり,女子の特性に応じてその社会復帰に必要な処遇が行われている。
(1) 女子刑務所における処遇
 女子刑務所としては,栃木刑務所,和歌山刑務所,笠松刑務所及び麓刑務所が設けられているほか,札幌刑務所に独立した女子区がある。
 まず,過去10年の女子新受刑者数を見ると,昭和49年までは,多少の起伏を示しながらも減少傾向にあったが,50年からは増加の兆しが見え,51年の女子新受刑者数は570人で,前年に比べて53人多くなっている。
 女子新受刑者の罪名を男子のそれと対比して見ると,刑法犯の窃盗,詐欺,殺人,特別法犯の覚せい剤取締法違反等の占める率が高く,殺人を除く凶悪犯及び粗暴犯の率は低い。また,年齢別では,半数以上が40歳を超え,高齢者が多い(II-29表II-33表参照)。

III-103表 男女別新受刑者の配偶者の有無(昭和51年)

III-104表 女子新受刑者の犯時職業(昭和51年)

III-105表 女子出所受刑者の職業訓練種目別受講人員(昭和51年)

 このような年齢分布は,女子新受刑者の配偶者の有無や犯時職業にも関係し,III-103表III-104表に見るとおり,既婚者が圧倒的に多く,また,犯時職業では家事従事及びその他の無職が7割近くを占めている。
 次に,入所度数及び入所度数初度の者の保護処分歴については,女子受刑者には,男子に比べて犯罪・非行歴のない者が多く,入所度数初度の者が半数以上を占めており,また,入所度数初度の者のほぼ9割が保護処分歴もない者である。しかし,その反面,入所度数5度以上の者が2割近くになっていることが注目される。
 女子受刑者は,その特性により,また,受刑者数が少ないことなどから,男子受刑者のように施設ごとの特殊・専門化は行われず,配偶者や子供等との保護関係の維持・調整のために,原則として,受刑者の居住地に近い施設に収容されている。ただ,外国人受刑者は,すべて栃木刑務所に収容されている。
 女子刑務所における処遇は,女子受刑者の特性を考慮して,情緒の安定性を養うこと,家庭生活の知識と技術を習得させること,教養と趣味を身につけさせること,保護引受人の確保に努めることなどに重点が置かれている。
 施設の調度品などについても特に家庭的なものが用意され,開放的なふん囲気で,心理的圧迫感をできる限り少なくするように配慮されている。
 就職のために技能教育の必要な者には,職業訓練も活発に行われている。昭和51年に出所した女子受刑者550人のうち,職業訓練を受けた者は127人で,その受講率は23.1%であり,男子の5,1%に比べてはるかに高くなっている。その受講内容を見ると,III-105表のとおりで,女子の特性に応じた種目で占められている。また,免許・資格を取得した者は,美容師20人,調理師5人,珠算・その他2人の計27人となっており,その取得率は4.9%で,これも男子受刑者に比べて高くなっている。
 これらの生活指導,職業補導とともに,女子受刑者については,医療及び母子衛生に特別の配慮が加えられている。女子受刑者の医療は,男子受刑者のように医療専門の刑務所がないため,軽症の場合は,各刑務所の医務課で行われるが,重症の場合は,特に支障のない限り,一般病院に入院させて行われている。また,受刑者が妊産婦である場合には,特別の保護的措置が執られ,出産は原則として外部の病院で行われている。更に,受刑者が1歳未満の乳児を伴う場合は,その乳児等を刑務所内の保育室で1歳になるまで育てることも許されている。1歳を超えた乳児は,一般の乳児施設又は保護者の下に預けられている。
(2) 女子少年院における処遇
 女子少年院は,東京・大阪・名古屋・広島・福岡・仙台・札幌・高松の各矯正管区管内に1ないし2施設が置かれ,合計10施設ある。ほかに医療的措置の必要な女子のために,関東医療少年院及び京都医療少年院に,女子区が設けられている。
 過去10年間の女子新収容者の数を見ると,昭和49年までは減少傾向にあったが,50年から少しずつ増加し,51年は237人で前年に比べて52人増加した。
 昭和51年の新収容者237人について見ると,男子に比べて,低年齢及び虞犯の少年が多い(III-47表III-48表参照)。また,教育程度も男子に比べて低い者の占める率がやや高い。職業については,61.2%が無職である。粗暴犯,凶悪犯が少ないこと,教育程度が低く,無職者が多いことなどの特徴は,女子受刑者の場合と類似している。
 女子少年院における処遇は,これら収容少年の特徴を考慮して,規律ある生活習慣の形成,女性としての教養・情操のかん養などの生活指導,教科教育等に重点が置かれているが,これに関連して職業補導も重要視され,退院後,健全な職業生活が送れるように,職業ガイダンス,職業補導等も活発に行われている。

III-106表 女子出院者の職業補導種目別受講人員(昭和51年)

 昭和51年に女子少年院を出院した者192人のうち,職業補導を受けた者191人について,その種目を見ると,III-106表のとおりである。家事サービス,洋裁,手芸など職業生活にも家庭生活にも生かし得る種目を受けている者が多いが,タイプ,事務,理容等の受講者も比較的多くなっており,少年たちが単に将来の家庭生活のことだけを考えて職業補導を受けているのではないことを示している。
(3) 婦人補導院における処遇
 婦人補導院は,売春防止法5条の罪を犯して補導処分に付された成人の女子を収容し,これに更生のために必要な補導を行う施設で,収容期間は6箇月である。現在収容を行っているのは,東京婦人補導院1施設である。

III-107表 婦人補導院の人出院状況(昭和35年,49年〜51年)

III-108表 婦人補導院新収容者の精神状況(昭和49年〜51年)

 婦人補導院の新収容者数は,昭和35年をピークとして減少の一途をたどり,51年のそれは,III-107表に見るとおり,35年の十分の一にも満たない30人である。

III-109表 婦人補導院新収容者の矯正の必要事項別処遇結果と指導内容(昭和51年)

 これら新収容者の特性を見ると,精神状況については,III-108表のとおりで,昭和51年では,精神障害のない者が新収容者のほぼ半数となっている。年齢についても,やや若年者が増加し,40歳未満の者が半数強を占めているが,売春経験の年数は,逆に前年に比べて長い者が多くなっており,5年を超える者が9割に及んでいる。
 婦人補導院では,収容者の特性を考慮して,各人の矯正において最も必要とされるものを明らかにし,それに応じた処遇を,新しい処遇体系に基づいて,昭和51年から実施している。その結果をIII-109表によって見ると,資質上問題の多い収容者を短期間しか処遇できないにもかかわらず,かなりの成果を挙げていると言えよう。