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 昭和51年版 犯罪白書 第2編/第4章/第5節 

第5節 恩赦

 恩赦は,裁判によらないで,刑罰権を消滅させ又はその効力を減殺する特別の行政作用である。このように行政権の作用によって刑事裁判の効力を変更する重大な作用を持つ恩赦には,大赦(刑の言渡しの効力を失わせ,又は公訴権を消滅させる。),特赦(刑の言渡しの効力を失わせる。),減刑(刑若しくは刑の執行を減軽し,又は刑の減軽に併せて執行猶予の期間をも短縮する。),刑の執行の免除(宣告刑を変更せず,残刑期間の全部の執行を免除し,刑の執行を終了した状態とする。)及び復権(刑の言渡しを受けたため,資格を喪失し又は停止されている者に対して,その資格を回復させる。)の5種類がある。そして,恩赦を行う方法の上からは,政令によって一律に行われる政令恩赦(一般恩赦ともいう。)と特定の者に対し個別的に行われる個別恩赦の二つに区別される。個別恩赦は,更に,特別恩赦と常時恩赦に分かれる。
 政令恩赦は,政令で罪や刑の種類,基準日等を定め,その要件に該当する者のすべてに対して一律に実施される。国家的慶弔等重要な行事に際して行われるもので,戦後では,第二次大戦終結,日本国憲法公布,平和条約発効,皇太子殿下立太子礼,国連加盟,皇太子殿下御結婚,明治百年記念,沖縄復帰記念など計8回行われている。
 これに対して,個別恩赦は,有罪の確定裁判を受けた特定の者について,その犯情,行状,犯罪後の状況等を総合判断のうえ行われる。個別恩赦は,監獄の長,保護観察所の長又は検察官によって職権又は本人からの出願に基づいて中央更生保護審査会に上申され,個別に審査が行われ,恩赦相当として法務大臣に恩赦の申出がされた者に対して,閣議により恩赦が決定される。更に,天皇の認証によって,その効力が発生するのである。
 恩赦特に個別恩赦は,刑事政策的に見て,仮釈放,保護観察等とその趣旨を同じくする面があり,その適正な運用によっては,犯罪者の改善更生・社会復帰に効果的である。個別恩赦のうち,いつでも行われている常時恩赦の有効適切な活用は,保護観察の総仕上げであると言われており,更生保護の主要な一分野として,恩赦の適正な運用が含められているのもそのためである。
 II-84表は,最近5年間の常時恩赦の受理・処理状況を示したものである。昭和50年中の受理総数は480人で,その内訳は,前年からの繰越人員が160人,新受人員が320人である。新受人員を上申庁別に見ると,保護観察所の長から上申されたものが228人で最も多く,検察官から上申されたものが81人,監獄の長からの上申のものが11人となっている。

II-84表 常時恩赦の受理及び処理人員(昭和46年〜50年)

 次に,恩赦の申出をして内閣で相当であるとの決定がなされた人員は256人で,既済人員の81.0%となっている。これを恩赦の種別に見ると,復権が139人(54.3%)で最も多く,以下,刑の執行免除の58人(22.7%),減刑の43人(16.8%),特赦の16人(6.3%)の順となっている。恩赦不相当として,恩赦の申出をしなかった人員は,既済人員の14.6%に当たる46人であった。