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 昭和51年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節/1 

1 被害の状況

 まず,事件記録に基づく調査により,傷害事件について,被害の程度(受けた被害の回復に要した日数による。)別に見てみると,被害の程度が2週間以内のものが62.3%と最も多く,3箇月以内までのものが全体の96.2%を占めている。
 次に,被害者について,[1]後遺障害の有無・種類,[2]落ち度の有無・程度,[3]暴力団加入状況,[4]加害者と被害者の関係の各項目ごとに分析したのが,I-63表である。まず,傷害事件について後遺障害の有無・種類を見ると,後遺障害のあるものが14.6%となっており,被害程度が重くなればなるほど後遺障害が増大していると言える。被害者の落ち度の有無・程度は,刑事裁判において量刑上参酌される重要な事項である。前述の三菱重工本社ビル爆破事件のように全く被害者に落ち度のない場合もあれば,また,被害者が犯行を誘発するなど落ち度が認められる事例もある。傷害事件全体では,落ち度のないものが63.7%,ややあるものが30.1%となっており,傷害の程度が重くなるに従って被害者に落ち度の認められる比率が大きくなっている。また,死亡事件では,落ち度のないものが40.3%,ややあるものが43.8%,大いにあるものが15.3%となっており,傷害事件の場合と比較し,落ち度の認められる割合がやや多い。次に,暴力団の加入状況について見ると,被害者が暴力団に加入しているものは,傷害事件で5.3%,死亡事件で7.4%となっており,被害者が暴力団員である場合の方がその他の場合よりも,被害者に落ち度の認められる比率が高いことが調査の結果判明した。次に,被害者と加害者の関係を検討する。被害者と加害者の関係が不明のものを除外すると,傷害事件では,両者間に面識のない場合が58.6%,面識のある場合が41.4%となっている。更に,両者間に面識のある場合についてその内容を見ると,親族関係が5.5%,友人・知人関係が35.9%となっている。また,傷害の程度が重くなるに従って,被害者と加害者との間に面識のある場合が多くなっており,死亡事件になると,傷害事件の場合よりも一層面識のある割合が大きくなっている。被害者が親族である場合について,更にその加害者に対する関係を見ると,傷害事件では,被害者が加害者の配偶者であるケースがほぼ半数を占めており,死亡事件では,被害者が加害者の子に当たるケースが最も多く,次いで配偶者が多い。

I-63表 生命・身体犯による被害の状況

 なお,傷害を治療するのに要した費用は,調査により判明した限りでは,おおむね50万円以下の治療費を要するものが大部分となっている。
 次に,被害者及びその家族の生活が事件後どのように変化したかについて,前述の第二の調査(被害者及び家族に対する実態調査)の結果によると,次のとおりである。まず,被害前に職業を持っていたものにつき当時の一箇月の収入を調べると,4割以上のものが10万円以下の収入しか得ていない。また,職業を持っていたものの被害後の状況を見ると,被害後職業に変化のあったものが49.3%にも及んでいる。更に,その変化の内容を見ると,無職になったものが47.2%,転職したものが25.0%などとなっている。被害後の収入の変化を調べてみると,収入がなくなったか又は減少したものが,傷害事件で53.4%,死亡事件で56.9%となっている。最後に,家族生活の変化について検討すると,やはり,死亡事件において最も著しく,被害者の死亡により家族の者が勤めを始めたものが多いほか,事件のショックでノイローゼになったものや,家庭紛争を招いたものなどが相当数見受けられる。