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 昭和51年版 犯罪白書 第1編/第1章/第5節/3 

3 犯罪を犯した精神障害者の取扱い

 精神障害者が犯罪を犯した場合,その精神障害のため責任能力がないときは,心神喪失を理由として不起訴又は無罪となり,その能力が著しく低いときは,心神耗弱を理由として刑が減軽される。検察の段階で心神喪失と認められて不起訴となった者,裁判の段階で心神喪失により無罪となった者及び心神耗弱により刑の減軽の言渡しを受けた者の数を見ると,I-41表のようになっている。

I-41表 心神喪失・心神耗弱者の人員(昭和45年〜50年)

 次に,刑務所又は少年院に収容されている者のうちで精神障害者と認められている者は,I-42表のとおりであり,受刑者の約12%,少年院在院者の約11%となっている。この割合は,ここ10年来,受刑者については,おおむね横ばいであるが,少年院在院者については,わずかながら低下する傾向にある。刑務所や少年院に収容されている精神障害者に対しては,専門施設である医療刑務所や医療少年院を中心として,治療を主とする矯正処遇が行われている。

I-42表 矯正施設収容中の精神障害者(昭和50年12月20日現在)

 ところで,精神衛生法は,一般からの申請のほか,警察官の通報義務を規定し,また,精神障害犯罪者の不起訴,無罪等による釈放,保護観察実施中又は刑務所,少年院等からの釈放の場合の検察官,保護観察所長,矯正施設長による通報の義務を規定している。I-43表は,この申請・通報の件数及び精神衛生鑑定医の診察の結果,精神障害者と認定された者の数を示したものである。申請件数,通報件数ともに,減少傾向にある。このうち,昭和50年の通報件数6,665件についての内訳及び精神衛生法による措置入院の措置を執られた者の数を見ると,I-44表のとおりである。通報された者のうち,39.4%が措置入院となっている。

I-43表 精神衛生法による申請・通報件数及び精神障害者数(昭和41年〜50年)

I-44表 精神衛生法による通報機関別通報件数及び措置入院者数(昭和50年)

 このような措置入院制度は,もともと本人の治療面に主眼を置いた行政処分であって,危険な精神障害者に対する措置としては十分ではない。そこで,精神障害者がある程度以上重い犯罪に当たる行為をし,同様の行為を繰り返すおそれがある場合に,その者を特別の施設に収容して,医療等の措置を講ずるとともに社会の安全を保護するという新たな司法処分を設けることが必要になってくる。これが精神障害犯罪者に対する保安処分制度の新設問題であり,法務大臣の諮問機関である法制審議会が昭和49年5月に答申した改正刑法草案では,精神障害犯罪者に対する治療処分という保安処分制度の新設が提案されている。