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 昭和50年版 犯罪白書 第3編/第2章/第3節/1 

1 内ゲバ事犯

 昭和43年から49年までの内ゲバ事犯の発生及び検挙状況を見ると,III-115表のとおりである。この種事犯は,43年ころから激化し始め,44年には308件の内ゲバ事犯が発生し,死傷者数も1,145人に達した。49年には,発生件数286件,死傷者618人となっているが,特に死者が11人を数えるに至ったことは,この種事犯の凶悪化を物語るものといえよう。49年中に発生した内ゲバによる死亡事件は10件で,その発生状況は,III-116表のとおりである。

III-115表 内ゲバ事犯発生・検挙状況(昭和43年〜49年)

III-116表 昭和49年中の内ゲバ死亡事件(昭和49年)

 内ゲバ事犯の発生当初の形態は,偶然的な遭遇に起因するもので,集会・デモ等における主導権争いからの集団相互間の抗争が大部分を占めていた。使用された凶器も,プラカードの柄,竹竿,角材などのいわゆる「ゲバ棒」であった。ところが,最近では,襲撃専門の特別部隊を編成し,攻撃目標に対する徹底した調査を行い,綿密な計画を練ったうえでの襲撃になっている。このように襲撃が計画的・組織的となるにつれて,犯行場所も根拠の大学,アジト,構成員の宿所ばかりでなく,駅のホーム,百貨店,喫茶店などに及んでいる。また,使用凶器の点でも,鉄パイプ,バール,まさかり,とび口,掛け矢などにエスカレートし,打撃の方法も,全身を乱打し,特に頭部をねらう事案が多くなるなど,攻撃の手段,方法が凶悪化している。一方,セクト別に見ると,いわゆる革マル派対中核派の抗争事件が多い。また,昭和49年後半から,従来抗争の中心であった学生に代わって,職場労働者がこの種抗争の主力となる傾向が見られる。
 次に,昭和45年から49年までに発生した内ゲバ事件について,全国の検察庁における受理及び処理の状況を見ると,III-117表のとおりである。49年中に発生した事件についての受理人員は,549人となっている。49年に発生した事件の処理人員は527人で,処理区分別では,起訴254人,不起訴255人,家庭裁判所送致18人となっており,その起訴率は約50%である。

III-117表 内ゲバ事件検察庁受理・処理状況(昭和45年〜49年)

 最近におけるこの種事犯は,その犯行態様の重点がテロ行為へ移行してきていること,犯行が計画的に密行されるため目撃者が少ないこと,被害者が捜査に非協力的であることなどの事情により,その検挙・捜査は,一般的にいって極めて困難となってきている。しかしながら,この種事犯は,凶悪化・悪質化の一途をたどっており,被害が一般市民に拡散するに至り,既に重大な社会問題となっているので,この種事犯に対しては,いっそう強力な検挙活動と厳正な裁判が期待される。