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 昭和50年版 犯罪白書 第3編/第1章/第5節/2 

2 処遇の概要

 少年院における処遇は,少年院処遇規則1条に定められているように,「収容者の心身の発達程度を考慮して,明るい環境のもとに,紀律ある生活に親しませ,勤勉の精神を養わせるなど,正常な経験を豊富に体得させ,その社会不適応の原因を除去するとともに,長所を助成し,心身ともに健全な少年の育成を期して」少年の自覚に訴えながら行われている。その内容は,生活指導を中心的な位置に置きながら,教科並びに職業の補導,適当な訓練及び医療とされている。

(1) 生活指導

 少年院における生活指導は,矯正教育の根幹となるものであり,その目標は少年の反社会的な考え方や行動様式などを改めさせ,健全な社会性を発達させることである。したがって,生活指導は,少年院における全収容者に対して,少年の人格や生活状態等を考慮しながら,各種の活動にわたって行われる。その具体的な指導内容は,大要次のとおりである。

ア 集団的活動

 少年院に収容される少年にとっては,正しい人間関係や社会関係の理解・体得が極めて大切であって,集団の中での収容少年・職員・その他の人間関係を重視した指導が行われる。この種のものとしては,学寮生活集団における公式な係組織による活動,各種の委員会活動,各種討議集会などが挙げられる。

イ 教養・情操活動

 収容少年に対する指導として,教養・情操に訴える指導は最も大切なものの一つである。特に,生きがいのある人生観と豊かな人間性を育てるためには,これらの指導は欠かせないものである。この種の活動としては,各種教養集会,年間計画による各行事活動,少年院教官・篤志面接委員等による面接,各種クラブ活動,レクリエーション活動などがある。最近は,これらにとどまらず,施設処遇の社会化の方向に沿った活動にも力を入れ,社会福祉施設への慰問,公共の場所の清掃,BBS会員らとのキャンプ,地域の生徒との交流等が積極的に行われようとしている。

ウ 各種の治療的活動

 収容少年の中には,自分では気づいていないが,内面に強い感情的な葛藤や対人不信等の情緒的に深い問題を有し,そのために生活が乱れ,反社会的行動に走る者が多い。これらの少年に対しては,専門的技術を修得した職員によって,個別及び集団のカウンセリング,心理劇等の心理療法が行われている。最近では,更に,箱庭療法,行動療法,感受性訓練等の技法の導入も検討されている。
 なお,生活指導として行われているものではないが,希望者には民間宗教家による宗教的指導の機会が与えられている。

(2) 教科指導

 少年院においては,義務教育未修了の少年に対し,義務教育修了者と同程度の学力を履修させ,かつ,義務教育修了の資格を得させることを目的として,初等少年院を中心に,教育関係法令に準拠した中学課程の教科指導を実施している。少年院の長は,教科を修了した者に対して,学校教育法により設置された各学校の長が授与する卒業証書と同等の効力を有する修了証明書を発行できることとなっている。昭和49年において,中学校第3学年の課程の修了証明書(出身学校長に依頼して発行してもらう出身学校の卒業証書を含む。)を授与された出院者は170人で,全未修了者の約87%となっている。
 教科教育の専門施設には,月形少年院を初め8庁があり,中学校課程に準拠した教科教育がなされている。また,近時の高学歴化に対応すべく,高等学校教育の導入を図っているが,昭和37年に富山少年学院に高校通信教育課程を設置したのに続いて,49年5月には喜連川少年院にも同課程を開講した。

(3) 職業補導

 職業補導は,収容少年に労働を重んずる態度と規則正しい勤労の習慣を養わせ,職業生活に必要な知識・技能を授け,将来の自立を図ることを主な目的としているが,職業補導における人間関係の体験も矯正教育において重要な意味を有するのである。
 そのため,幾つかの少年院が職業補導の重点施設に指定されており,それには次のようなものがある。

ア 職業訓練専門の施設

 職業訓練法に基づき一般の専修職業訓練校と同内容の職業訓練を行い,履修者に対しては労働省職業訓練局長名の職業訓練履修証明書が授与される。主な種目は,機械・溶接・木工・建築・板金・電子機器・製版印刷であり,多摩少年院など9庁が指定されている。昭和49年におけるその履修証明書の取得状況は,III-83表のとおりである。

III-83表 職業訓練履修証明書取得状況(昭和49年)

 また,各省大臣の定める基準に従って各種の公的な資格・免許の取得につながる訓練課程を置いている施設が20余庁ある。その内容は,理容科(2庁),美容科(1庁),電工科(5庁),建設機械運転科(3庁),船舶科(1庁),自動車整備科(10庁)である。このほか,溶接,板金などの職業訓練法に準拠した履修課程を設けている施設もある。なお,これらのうち,やや特殊な船舶科について補足説明をすると,これは,新光学院内に附設された「新光海洋学校」で指導がなされているもので,特別少年院在院者中の海員志望者に対して,必要な技能を習得させ,丙種航海士と丙種機関士の資格を取得させようとするものである。毎年2回,甲板科と機関科が開設され,実習用の船「新光」(26.6トン)もある。

イ 職業補導専門の施設

 専門的,集中的な職業訓練を行うのでなく,職業生活に対する一般的指導を行うもので,前項に該当しない中等・特別少年院の多くがこの施設である。
 これらの施設では,試行課程ないしゼネラル・ショップ制と呼ばれる方法が採り入れられている。これは,例えば,木工・機械・板金・製図など数種類の基礎的課程を用意し,その各作業を順次指導しつつ少年の適性発見に努めるとともに,基礎的な職業指導を行っており,また,この試行過程を終えた後,各種の実科に編入して勤労の習性を助成するものである。
 なお,初等少年院在院中の義務教育を修了した者に対して職業指導課程を設けている施設がある。これは,中学校学習指導要領の技術家庭科を参考とし,より充実した指導を行って,職業生活の基礎的能力,職業選択の基礎的能力を付与しようとするものであって,赤城少年院がその試行的専門施設として指定されている。
 以上のような訓練・指導による資格・免許の取得状況は,III-84表のとおりである。

III-84表 資格・免許取得状況(昭和49年度)

(4) 医療衛生と給養

 収容少年の健康管理は,処遇の基礎的な問題として重要で,収容少年の医療衛生と給養に関しても種々配慮されている。
 昭和49年中の出院者2,384人のうち,在院中に傷病によって医療を受け休養したことのある者(教育訓練などの日課を停止して医療を施す者を休養患者という。)は941人である。休養患者の中には,医療少年院で比較的長期間医療を受けた者が含まれる。
 休養患者の病名では,非伝染性の呼吸器系疾患(大部分は急性呼吸器系疾患である。)と消化器系疾患が最も多い。前者は休養患者総数の44.0%,後者は15.5%を占めており,その平均休養期間は,前者で8日前後,後者で20日前後である。
 収容者の日常生活に必要な衣類・寝具・日用品・学用品などは,貸与又は給与されることになっている。ただし,紀律や衛生に害がない限り,自弁品の使用が許される場合がある。
 食糧の給与は,1人1日3,000カロリーであって,昭和49年度の1日1人当たりの主食費は,前年度より増額されて97.65円,副食費も同様増額されて104.79円となっている。なお,年1回の誕生日菜,年11回の祝祭日菜(それぞれ25円),正月菜(300円)がこのほかに認められており,国民一般の食習慣に近づけるよう努力が続けられている。また,結核患者などの病人には特別に増給することができるようになっている。

(5) その他の処遇

 収容少年の質的・量的変化に対応して,処遇内容についても新たな検討を加え,少年院の多様化が進められ,前述のように,特殊な処遇を行う施設が増加しつつある。その例として,体育専門施設及び短期施設について述べる。

ア 体育専門施設

 少年期が体育によって心身を鍛錬するのに最適の成長期であることから,体育・集団行動訓練・ゲーム等を通じて,規律正しさ・礼儀正しさ・フェアプレーの精神とともに,より積極的な行動力・自発性を体得させるプログラムを用意するものである。特別少年院としては小田原少年院が,中等少年院としては印旙少年院と和泉少年院が,それぞれ,この種施設として指定されている。

イ 短期施設

 中等少年院送致の決定を受けた少年の中で,比較的非行性の進んでいない者に対し,6箇月間の短期訓練を施すもので,和泉少年院での試行が昭和32年11月から認可されたが,更に,広島少年院(49年12月),有明高原寮(50年3月)及び豊ケ岡農工学院(50年4月)が短期施設に指定された。
 短期処遇は,少年の非行がそれほど進行していないうちに,早期に計画的,集中的な矯正教育を行おうとするもので,努めて開放的な明るいふん囲気の下で処遇をしている。最近の少年非行の態様の変化に対応しながら,今後更に増設の機運にあり,具体的な検討が行われている。
 なお,交通事犯関係少年のための短期施設が上記のほか3庁設けられているが,これについては第3章第4節において述べる。