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 昭和50年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節/3 

3 財政経済関係

 最近5年間の財政経済関係の特別法犯の検察庁新規受理人員の推移を示したのが,I-35表である。所得税法違反は昭和48年まで逐年増加してきたが,49年には前年より減少している。法人税法違反は,47年をピークとして48年には減少したが,49年には前年より若干増加している。ちなみに,国税庁の資料によると,49年度の直接国税(所得税及び法人税)の脱漏所得金額は,前年度より22億9,600万円減少して199億6,900万円(うち,検察庁への告発分は159億7,800万円)となり,脱漏税額も前年度より31億4,100万円減少して123億3,500万円(101億2,300万円)となっている。しかし,検察庁に告発した事件のうち,脱漏税額が1億円以上のものは,48年度の19件(15%)から49年度の26件(21%)に増加している。また,49年度の特徴として,業種別では前年に引き続いて不動産業,建設業などが上位を占めているほか,商品取引や株式取引に絡む大口の脱税が摘発されたことが挙げられる。更に,最近の脱税の手口として,売上の脱漏,架空経費の支出などの巧妙な方法を用い,脱税利益による財産を巧みに隠匿するなど,手段の悪質化が見られる。

I-35表 財政経済関係特別法犯検察庁新規受理人員(昭和45年〜49年)

 次に,関税法違反は逐年減少している。出資の受入,預り金及び金利等の取締等に関する法律違反は,昭和48年まで減少傾向を続けてきたが,49年には前年より大幅に増加している。その理由は,金融引締め下の経済界の現状を背景として,高金利,潜り金融などの同法違反が増加したためである。宅地建物取引業法違反は,起伏を示しながら48年まで増加してきたが,49年には前年より大幅に減少している。経済的な景気の停滞による不動産取引の減退を反映して同法違反も減少したものと思われるが,その反面,経営不振の業者らによる巧妙・悪質な手口の犯行が多くなっている。
 そのほか,昭和48年10月の中東戦争に端を発した石油危機を背景として,49年2月に主要石油元売業者による価格協定などの大規模な私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反が摘発され,関係業者及びその役員が同法違反によって起訴されている。また,石油危機以来の経済情勢の悪化を反映する事例としては,冷暖房工事の設計施工等を営む上場会社が49年5月に倒産したのを契機として,同会社の粉飾経理,株価操作が発覚し,同社役職員が商法違反(特別背任等),証券取引法違反などによって起訴されている。