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 昭和50年版 犯罪白書 第1編/第1章/第3節/3 

3 地域人口の変動との関連

 近年における経済の高度成長は急激かつ大規模な人口移動を促進し,いわゆる過密,過疎など数多くの問題を提起しているが,社会現象としての少年犯罪もまた,当然にこのようなひずみと関連するものと思われる。
 そこで,社会の変動を見る指標として人口移動を取り上げ,特に,地域別人口の増減状況の推移から少年犯罪との関連をながめることとする。
 人口動態が社会生活の諸側面に及ぼす影響は極めて大きいとされている。このような観点から,戦後における人口移動の都道府県別推移を人口問題審議会の資料等から概観すると,おおむね次のように要約することができよう。
 まず,昭和25年から30年に至る都道府県別人口の増減状況を見ると,全般を通じて,転入超過によって人口が増加した県は,東京,神奈川,大阪,愛知,兵庫の各都府県であり,転出超過によって人口が減少したのは,新潟,福島,鹿児島等の26県となっている。このうち,転入超過がほぼ常態化していたのは,いずれも大都市を抱えた都府県であり,経済成長と人口の大都市集中との関係は明らかである。しかし,この時期における大都市への人口の増加速度は,まだそれほど急激なものとはなっていない。30年から35年にかけての推移を見ると,大工業地帯を抱えた東京,大阪,神奈川,愛知,兵庫の各都府県への転入の激増,大都市周辺に位置してその過剰人口を受け入れた埼玉,千葉など周辺県への転入の急増,及びこれらに労働人口を供給する東北,北関東,四国,九州地方各県における転出の増加が目立ち,過密,過疎などの社会現象が問題化し始めている。
 昭和35年から40年に入ると,大都市を抱えた都府県への人口集中よりもその周辺地域への人口集積が激化して,いわゆる人口増加率のドーナツ化現象が顕著となった。東京周辺における神奈川,埼玉,千葉の各県,大阪周辺における京都府,奈良県など巨大都市圏の形成がこれである。この時期においては,東京を初めとする転入超過県及び東北,九州などの転出超過県の人口増減率の速度はようやく鈍化し始めている。
 昭和40年から45年にかけては,大都市を抱える都府県及びその周辺県の人口増加は続くものの,その速度は更に鈍化している。
 この時期に人口減少を示した市町村は,全市町村総数の約71%にも達し,人口流出の著しい地域では,自然増加数も当然に減少することとなり,過疎問題は一段と重大化した。
 昭和45年以降においても,大都市圏への人口集積はなお継続しているものの,その速度は逓減し,代わって,県庁所在地など地方中核都市の人口増加率が漸増し,いわば人口の分散的な集積傾向が一部に見られるようになっている。
 このように,昭和30年代に始まる経済の高度成長は,大都市地域での労働力需要を増大させた結果,若年労働力を中心とする急激かつ大規模な人口移動を促進させるとともに,人口の集積,分散に伴う地域社会の変動をもたらし,少年犯罪の動向にも少なからず関連するに至っている。
 I-18図は,人口集積度の最も高い大都市として東京を,依然として人口増加率の著しい大都市周辺県として埼玉,神奈川及び千葉を,また,減少傾向を続ける県として鹿児島及び秋田を選び,昭和25年を100とする指数で各地域における少年刑法犯の推移を示したものである。

I-18図 人口増減率の著しい地域における少年刑法犯検挙人員指数の推移(昭和25年〜48年)

 同図により,まず東京の犯罪動向をながめると,昭和20年代後半に激減した東京における少年犯罪は,30年代に急増を続け,38年にピークに達した後,40年代には減少傾向を示しているが,30年代における人口の大都市集中及び40年代の東京における人口増加率の鈍化傾向にかんがみると,人口の急激な増大と少年犯罪の増加との密接な関連がうかがわれる。
 次に,大都市周辺県としての埼玉,千葉を見ると,少年犯罪は両県ともに30年代初頭から一貫して増勢を示し,その増減の状況はほぼ類似した動きとなっている。大工業地帯を抱える神奈川は,30年代においては人口比,増減率ともにほとんど東京と共通した動きを示しているものの,40年代に至ってもなお高い指数を示し,東京のそれを大きく上回っている。大都市横浜を含み,京浜工業地帯を構成する神奈川は,少年犯罪においても東京とほぼ一体化した動向を示しているのに対し,東京のベッドタウンとしての性格が強まった埼玉及び千葉はおおむね類似した少年犯罪の動向を示しているといえる。
 昭和30年代後半から40年代前半にかけて,東京の周辺地域として人口集積のドーナツ化現象が顕著となった埼玉及び千葉において少年犯罪もまた激増している事実は,大都市周辺における少年犯罪自体のドーナツ化現象を意味し,ここでも人口動態と少年犯罪の動向との関連が見られる。
 最後に,減少率の高い鹿児島及び秋田について見ると,両県とも少年犯罪の指数は全国平均を大幅に下回っており,特に人口減少率の高い鹿児島においてその指数の低下が著しい。鹿児島では,大都市及びその周辺地域で少年犯罪が激増した昭和30年代後半において少年犯罪が激減している。鹿児島に比べて人口減少率の緩やかな秋田においては,少年犯罪の動向もかなり起伏に富むものとなっているが,大都市及び周辺地域との対比はもとより,全国平均に対比しても,その指数はなお著しく低率である。