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 昭和50年版 犯罪白書 第1編/第1章/第2節/7 

7 薬物濫用犯罪

 昭和29年以降の麻薬事犯及び覚せい剤事犯の動向を,検察庁受理人員によって見ると,I-10図及びI-11図のとおりである。戦後の我が国における薬物濫用犯罪の推移を見ると,三つの大きな波を示している。第一は,覚せい剤取締法違反の激増であり,同法違反は,26年の法施行以来急激に増加し,29年には検察庁受理人員が約5万3,000人に達したが,2回にわたる罰則の強化,徹底した検挙・処理,中毒者に対する入院措置の導入などの対策の実施によって,31年以降は急激に減少し,33年には265人となって,ほとんど根絶に近い状態となった。第二は,へロインを中心とする麻薬取締法違反の増加であり,37年,38年には受理人員が3,000人を超えたが,覚せい剤事犯に対すると同様の徹底した検挙・処理と罰則の強化等の措置によって,39年以降は急速に減少していった。このようにして,麻薬・覚せい剤事犯は沈静化したかに見えたが,45年に大麻取締法違反が急激に増加し,以後おおむね横ばいの状況にある。第三は,覚せい剤取締法違反の再度の激増である。同法違反は,45年以降毎年激増を続けており,48年の受理人員は約1万1,000人となった。49年には,やや減少を示したものの,なお7,635人の受理人員を数えており,32年から44年の間の最高受理人員数1,141人(38年)の6.7倍となっている。

I-10図 麻薬事犯検察庁受理人員の年次別推移(昭和29年〜49年)

I-11図 覚せい剤取締法違反検察庁新規受理人員の年次別推移(昭和29年〜49年)

 薬物濫用のもたらす害悪は,単に濫用者個人の精神・身体の荒廃をもたらすにとどまらず,家庭を破壊し,ついには社会一般にも及ぶものであって,この種事犯については,国民の犯罪観にも変容はみられない。過去二つの波を乗り越えてきた実績に照らし,今後とも規制の強化と取締りの徹底による成果が期待される。