前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和50年版 犯罪白書 第1編/第1章 

第1編 犯罪の動向

第1章 社会の進展と犯罪の変化

 犯罪は一つの社会現象であり,社会が変動するにつれて犯罪も変化する。社会的諸条件の変動に伴う犯罪現象の変化は,犯罪の量的変化となって現れるばかりでなく,その質的な変容となって出現する。最近における急激な社会変動とこれに伴う国民の価値観,行動様式の変化は,犯罪の発生状況に関連を持つとともに,犯罪の形態と規模の変化をもたらしている。
 このような観点から,昭和49年の犯罪動向を詳述するに先立って,最近の犯罪の特徴と背景を理解するため,我が国における社会の進展と犯罪現象の変化について焦点を当てることとする。まず最初に,社会の進展に伴う犯罪の量的変化を見るために,戦後の我が国における犯罪状況の推移を概観する。次に,犯罪の質的変化を検討するために,最近における犯罪の形態及び規模の変化を分析する。また,社会変動の影響を最も敏感に受けると考えられる少年非行について,社会の進展との関連において考察する。更に,いっそう根本的な問題として,社会的条件と犯罪発生との関係について,研究資料に基づいて分析,検討する。
 なお,本章において,犯罪状況の推移を概観するに当たり,刑法犯,道路交通法違反,その他の特別法犯に分けて,犯罪動向を考察する。刑法犯は,窃盗や殺人などのように刑法に規定されている犯罪であるが,法規範の設定を待つまでもなく反道徳的,反社会的とされるものであり,主として行政上の目的のために制定された各種の行政法令の罰則に違反する特別法犯と異なる要素を持っている。また,特別法犯のうちでも,道路交通法違反は,発生件数が多数に上り,処理の点でも特殊な手続が設けられているなどのため,他の特別法犯と分けて検討することが有益である。その場合に,統計上当初から刑法犯として取り扱われている盗犯等の防止及処分し関する法律違反はもとより,準刑法犯と呼ばれている決闘罪に関する件,爆発物取締罰則及び暴力行為等処罰に関する法律の各違反も,犯罪類型的に見ると,刑法犯に組み入れるのが適当であると思われるので,この白書では刑法犯に含めて考察する。