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 昭和49年版 犯罪白書 第1編/第3章/第2節/2 

2 開発地域における犯罪動向

(1) 概況

 次に,全国の新産及び工特における犯罪動向を概観することとする。まず,昭和38年及び48年の新産及び工特における業過を除く刑法犯の発生件数及び発生率(人口10万人当たりの発生件数をいう。本節において,以下同じ。)を示したのが,I-85表である。新産及び工特に指足された地域は,現実の開発地を含む広範な行政地域であるため,その中でも,実際に開発が進行している中心地区を選び,その地区における開発の進展に伴う犯罪現象の推移をみることとする。I-86表は,各開発地域の開発中心地区を管轄する警察署を示したものであり,以下,各開発地域の犯罪動向について,それぞれの中心地区の警察署の管轄地域における犯罪現象の推移によって考察することとする。

I-85表 開発地域における業過を除く刑法犯の発生件数及び発生率(昭和38年・48年)

I-86表 開発地域の開発中心地区を管轄する警察署

 I-85表により,昭和48年の開発地域における業過を除く刑法犯の発生率をみると,全国の発生率(1,100.2)よりも高い地域は,徳島(1,995.7)を最高として,道央(1,849.7),秋田湾(1,473.1),新潟(1,443.4),仙台湾(1,377.0),周南(1,332.0),八戸(1,247.0),中海(鳥取県側,1,224.5),松本・諏訪(1,212.4),常磐・郡山(1,211.8),鹿島(1,206.6),不知火・有明・大牟田 (福岡県側,1,205.3),備後(広島県側,1,144.5),大分(1,114.8),岡山県南(1,110.0)の15地域である。これに対して,全国の発生率より低い地域は,東三河(1,031.9),富山・高岡(902.8),中海(島根県側,850.4),東駿河湾(797.9),日向・延岡(785.9),播磨(780.3),不知火・有明・大牟田(熊本県側,736.5),備後(岡山県側,705.3),東予 (628.6)の9地域となっている。
 次に,I-85表により,各開発地域における業過を除く刑法犯の発生件数の推移について,昭和38年を100とする指数でみると,48年の発生件数が38年と比べて増加しているのは,鹿島(407)を筆頭にして,道央(168),備後(広島県側,129),常磐・郡山 (124),中海(鳥取県側,121),徳島(119),新潟(107),松本・諏訪(107),秋田湾(102),中海(島根県側,102),八戸(101〉の11地域となっている。一方,過去10年間に業過を除く刑法犯の減少している地域は,播磨(98),東三河(95),日向・延岡(90),富山・高岡(88),東駿河湾(82),大分(75),岡山県南(72),不知火・有明・大牟田(福岡県側,71),周南(70),仙台湾(69),東予(60),備後(岡出県側,53),不知火・有明・大牟田(熊本県側,42)の13地域となっている。なお,48年の全国における発生件数の指数は87であるから,業過を除く刑法犯が過去10年間に全国における発生件数の減少率を上回って下降している地域は,上記の開発地域24か所のうち,東駿河湾など9地域にすぎなくなっている。
 ところで,一般に,人口の増減に伴って犯罪も増減するのが通常であると考えられるので,人口の増減による影響を除去した犯罪現象の推移をみるため,I-85表により,過去10年間の開発地域における業過を除く刑法犯の発生率の推移を,昭和38年を100とする指数でみることとする。過去10年間に業過を除く刑法犯の発生率の上昇しているのは,鹿島(291).道央(128),中海(鳥取県側,117),常磐・郡山(110),中海(島根県側,107),松本・諏訪(101)の6地域であり,備後(広島県側,100)は横ばいの状況となっている。一方,過去10年間に発生率の下降している地域は,日向・延岡(98),徳島(95),新潟(94),不知火・有明・大牟田(福岡県側,91),秋田湾(90),八戸(90),富山・高岡(82),東三河(81),播磨(68),東予(65),周南(64),大分(63),東駿河湾(63),備後(岡山県側,58),岡山県南(56),仙台湾(53),不知火・有明・大牟田(熊木県側,47),の17地域となっている。48年の全国における発生率の指数は79であるから,過去10年間に,業過を除く刑法犯の発生率が,全国における減少率を上回って下降しているのは,播磨など9地域となっている。
 以上述べた全国の開発地域24か所における業過を除く刑法犯の動向を要約すると,次のとおりである。
[1] 昭和48年の発生率について,全国平均より高い地域は,徳島など15地域であり,全国平均より低い地域は,東三河など9地域である。
[2] 過去10年間における発生件数の推移では,発生件数が増加している地域は,鹿島など11地域であり,減少しているのは,播磨など13地域(うち,全国の減少率を上回って下降しているのは,東駿河湾など9地域)となっている。
[3] 過去10年間における発生率の推移では,発生率が上昇している地域は,鹿島など6地域,横ばい状況にあるのは備後(広島県側)の1地域であり,下降しているのは,日向・延岡など17地域(うち,全国の減少率を上回って減少しているのは,播磨など9地域)となっている。

(2) 代表的な開発地域における犯罪動向

 以上において全国の開発地域における犯罪動向を概観したが,次に,代表的な開発地域と考えられる道央,常磐・郡山,播磨,岡山県南及び鹿島の各地域における犯罪現象の推移を更に詳細に検討することとする。

ア 業過を除く刑法犯の動向

(ア) 道央地域
 昭和38年から48年までの道央地域における業過を除く刑法犯の発生件数及び発生率の推移を示したのが,I-87表であり,全国における同様の推移を示したのが,I-88表である。これらの表によって,48年の道央地域における業過を除く刑法犯の発生率を,全国の発生率と比較すると.総数の発生率は,道央地域では1,849.7であり,全国における1,100.2よりも相当高率となっている。また,罪種別の発生率についても,道央地域では,凶悪犯(4.0),粗暴犯(223.7),財産犯(1,511.0)において,全国の各発生率(凶悪犯3.7,粗暴犯81.4,財産犯963.5)を相当上回っている。しかし,道央地域の性犯罪(10.2)については全国の発生率(10.6)よりも低率となっでいる。

I-87表 業過を除く刑法犯の罪種別発生件数及び発生率(道央)(昭和38年,40年,42年,44年,46年,48年)

I-88表 業過を除く刑法犯の罪種別発生件数及び発生率(全国)(昭和38年,40年,42年,44年,46年,48年)

 次に,過去10年間の道央地域における業過を除く刑法犯の発生件数の推移を昭和38年を100とする指数でみると,I-87表のとおりであり,48年において,総数では168と増加している。罪種別にみると,粗暴犯では217,財産犯では154と著しく増加しているのに対して,凶悪犯では58,性犯罪では90と減少している。全国における同様の発生件数の推移を記載したI-88表によると,48年の全国における発生件数の指数は,凶悪犯の64,粗暴犯の58,財産犯の90.性犯罪の94となり,いずれも減少しているのと比較して,道央地域における粗暴犯及び財産犯の激増が注目される。
 また,I-87表により,過去10年間の道央地域における業過を除く刑法犯の発生率の推移を,昭和38年を100とする指数でみると,48年において,総数では128と増大している。罪種別にみると,粗暴犯では166,財産犯では118と増大しているが,凶悪犯では45,性犯罪では68と減小している。一方,I-88表により,全国における同様の発生率の推移をみると,凶悪犯で57,粗暴犯で52,財産犯で81,性犯罪で85といずれも下降している。
 このように,過去10年間の道央地域における業過を除く刑法犯については,総数において発生件数,発生率ともに増加し,罪種別でも粗暴犯及び財産犯において相当の増加を示しているのが特徴的である。
(イ) 常磐・郡山地域
 昭和38年から48年までの常磐・郡山地域における業過を除く刑法犯の発生件数及び発生率の推移を示したのが,I-89表である。まず,48年の常磐・郡山地域における業過を除く刑法犯の発生率を,I-88表記載の全国の発生率と比較すると,総数については,常磐・郡山地域での発生率は1,211.8であり,全国における発生率よりも相当高率となっている。また,罪種別にみても,常磐・郡山地域における粗暴犯(110.5),財産犯(1,039.2),性犯罪(15.6)の発生率は,全国における各発生率よりも相当高くなっているが,凶悪犯(3.6)の発生率は,全国における発生率より低率である。

I-89表 業過を除く刑法犯の罪種別発生件数及び発生率(常磐・郡山)(昭和38年,40年,42年,44年,46年,48年)

 次に,過去10年間の常磐・郡山地域における業過を除く刑法犯の発生件数の推移を昭和38を100とする指数でみると,I-89表のとおりであり,48年において,総数では124と増加している。罪種別にみると,財産犯では127と増加しているが,凶悪犯では69,粗暴犯では87,性犯罪では95と減少している。先に触れたとおり,過去10年間に全国ではすべての罪種にわたって減少しているが,常磐・郡山地域における凶悪犯,粗暴犯及び性犯罪の減少率は,全国における各減少率ほど高くはない。
 また,I-89表により,昭和48年の常磐・郡山地域における業過を除く刑法犯の発生率を38年を100とする指数でみると,総数では110と増大している。罪種別にみると,財産犯では113と増大しているのに対して,凶悪犯では61,粗暴犯では77,性犯罪では84と減小している。先に述べたとおり,過去10年間に全国では総数及びすべての罪種にわたって発生率が下降しているが,常磐・郡山地域での性犯罪を除く他の罪種における減少率は,全国における減少率よりも低くなっている。
 このように,過去10年間の常磐・郡山地域における業過を除く刑法犯については,総数において発生件数及び発生率ともに増加し,罪種別では財産犯においてかなりの増加を示しているのが注目される。
(ウ) 播磨地域
 昭和38年から48年までの播磨地域における業過を除く刑法犯の発生件数及び発生率を示したのが,I-90表である。まず,48年の播磨地域における業過を除く刑法犯の発生率を,I-88表記載の全国における発生率と比較すると,総数では,播磨地域における発生率は780.3であり,全国の発生率より相当低率となっている。罪橿別では,凶悪犯(1.5),粗暴犯(61.8),財産犯(697.8),性犯罪(4.0)の発生率は,いずれも全国における各発生率より低くなっている。

I-90表 業過を除く刑法犯の罪種別発生件数及び発生率(播磨)(昭和38年,40年,42年,44年,46年,48年)

 次に,I-90表により,昭和48年の播磨地域における業過を除く刑法犯の発生件数の推移を38年を100とする指数でみると,総数では98と若干減少している。罪種別にみると,財産犯では100と横ばい状況にあるのを除いて,その他の罪種では,凶悪犯で30,粗暴犯で76,性犯罪で35と減少している。そのうち,凶悪犯及び性犯罪の減少率は,全国における各減少率を上回っている。
 また,I-90表により,昭和48年の播磨地域における業過を除く刑法犯の発生率を38年を100とする指数で示すと,総数では68と減小している。罪種別にみると,凶悪犯では21,粗暴犯では52,財産犯では69,性犯罪では24と著しく減小している。これを,I-88表記載の全国における発生率の推移と比較すると,播磨地域において,粗暴犯の減少率は全国における減少率と同率であるが,総数及び他の罪種における減少率は,全国における減少率を上回っている。
 このように,過去10年間の播磨地域における業過を除く刑法犯については,発生件数では総数及び財産犯を除く他の罪種において減少し,発生率では総数及びすべての罪種にわたって下降しているのが特徴的である。
(エ) 岡山県南地域
 昭和38年から48年までの岡山県南地域における業過を除く刑法犯の発生件数及び発生率の推移を示したのが,I-91表である。まず,48年の岡山県南地域における業過を除く刑法犯の発生率を,I-88表記載の全国における同様の発生率と比較すると,総数では岡山県南地域における発生率は1,110.0であり,全国における発生率より若干高くなっている。罪種別にみると,岡山県南地域における発生率は,粗暴犯(83.6),財産犯(980.2)では,全国の発生率よりも高く,凶悪犯(2.7),性犯罪(5.6)では,全国の発生率よりも低くなっている。

I-91表 業過を除く刑法犯の罪種別発生件数及び発生率(岡山県南)(昭和38年,40年,42年,44年,46年,48年)

 次に,I-91表により,昭和48年の岡山県南地域における業過を除く刑法犯の発生件数の推移を38年を100とする指数でみると,総数では72と減少している。罪種別にみると,凶悪犯では33,粗暴犯では42,財産犯では75,性犯罪では39といずれも相当の減少となっている。これを,I-88表記載の全国における発生件数の推移と比較すると,岡山県南地域の総数及びすべての罪種における発生件数の減少率は,全国における減少率を上回っている。
 また,昭和48年の岡山県南地域における業過を除く刑法犯の発生率の推移を38年を100とする指数でみると,総数では56と減小している。罪種別にみても,凶悪犯では26,粗暴犯では33,財産犯では59,性犯罪では30といずれも著しく減小している。これを,I-88表記載の全国における発生率の推移と比較すると,岡山県南地域における発生率の減少率は,総数及びすべての罪種にわたって,全国における減少率を上回っている。
 このように,過去10年間の岡山県南地域における業過を除く刑法犯については,発生件数及び発生率とも,総数及びすべての罪種にわたって減少しているのが注目される。
(オ) 鹿島地域
 昭和38年から48年までの鹿島地域における業過を除く刑法犯の発生件数及び発生率の推移を示したのが,I-92表である。まず,48年の鹿島地域における業過を除く刑法犯の発生率を,I-88表記載の全国における同様の発生率と比較すると,総数では,鹿島地域における発生率は1,206.6であり,全国における発生率より相当高率となっている。罪種別にみても.鹿島地域における発生率は,凶悪犯(6.0),財産犯(1,091.7)では全国の発生率よりも高率となっているが,粗暴犯(70.5),性犯罪(9.1)では,全国の発生率より低率となっている。

I-92表 業過を除く刑法犯の罪種別発生件数及び発生率(鹿島)(昭和38年,40年,42年,44年,46年,48年)

 次に,I-92表により,昭和48年の鹿島地域における業過を除く刑法犯の発生件数の推移を38年を100とする指数でみると,総数では407と激増している。罪種別にみても,粗暴犯では123,財産犯では493と著しく増加し,実数は少ないが,凶悪犯では200,性犯罪では180と増加している。先に述べたとおり,過去10年間に全国における発生件数は,総数及びすべての罪種にわたって減少しているのと比較して,鹿島地域における発生件数の激増ぶりは極めて対照的である。
 また,I-92表により,昭和48年の鹿島地域における業過を除く刑法犯の発生率を38年を100とする指数でみると,総数では291と著しく増大している。罪種別にみても,凶悪犯では143,財産犯では352,性犯罪では130と増大しているが,粗暴犯では88と減小している。しかし,この粗暴犯における減少率も,I-88表記載の全国の粗暴犯における減少率にははるかに及ばない。
 このように,過去10年間の鹿島地域における業過を除く刑法犯については,発生件数では総数及びすべての罪種にわたって著しく増加し,発生率では総数及び粗暴犯を除く他の罪種において相当の上昇を示しているのが注目される。

イ 業務上(重)過失致死傷の動向

 昭和38年から48年までの代表的な開発地域における道路交通による業務上(重)過失致死傷の発生件数及び発生率の推移を示したのが,I-93表である。まず,48年の代表的な開発地域における道路交通による業務上(重)過失致死傷の発生率をみると,最も発生率の高いのは鹿島(702.0)であり,次いで,常磐・郡山(697.6),播磨(696.8),岡山県南(668.1),道央(608.0)の順となっており,いずれも全国の発生率497.4より相当高率となっている。

I-93表 代表的な開発地域における道路交通による業務上(重)過失致死傷の発生件数及び発生率(昭和38年,40年,42年,44年,46年,48年)

 次に,I-93表により,昭和48年の代表的な開発地域における道路交通による業務上(重)過失致死傷の発生件数を38年を100とする指数(鹿島については40年を100とする指数)でみると,鹿島の591を最高に,常磐・郡山の550,播磨の288,岡山県南の254,道央の230の順となり,いずれも相当の増加を示している。48年の全国における発生件数の指数は298であるから,過去10年間の鹿島及び常磐・郡山における発生件数の増加率は,全国における増加率を相当上回っていることが注目される。
 また,昭和48年の代表的な開発地域における道路交通による業務上(重)過失致死傷の発生率を38年を100とする指数でみると,常磐・郡山では489,鹿島で414,播磨で199,岡山県南で199,道央で176といずれも増加している。48年の全国における発生率の指数は269であるから,過去10年間に常磐・郡山及び鹿島における発生率は,全国における増加率を相当上回って高くなっているといえる。
 このように,過去10年間に代表的な開発地域における道路交通による業務上(重)過失致死傷については,発生件数,発生率とも相当の割合で増加している。また,昭和48年の発生率は,これらのいずれの開発地域においても,全国における発生率より高くなっていることが特徴的である。

ウ 開発地域における人口増加と犯罪動向

 従来から,人口の増大に伴って犯罪が増加するといわれてきたが,最近の我が国では,一般に,人口の増加にもかかわらず,業過を除く刑法犯は減少する傾向がみられる。ところで,開発地域においては,開発の進展に伴って人口も急激に増加する場合が多いが,この人口の増加と犯罪動向との間にはどのような関係が認められるであろうか。
 I-21図は,昭和38年から48年までの代表的な開発地域における業過を除く刑法犯の発生件数と人口の推移を38年を100とする指数で図示したものである。これによって48年の各地域における発生件数及び人口の各指数をみると,播磨においては,人口では145と増加しているのに,業過を除く刑法犯では98と若干減少している。岡山県南においても,人口では127と増加しているのに,業過を除く刑法犯では72と相当の減少となっている。一方,道央においては,人口では131と増加しているのに対して,業過を除く刑法犯ではこれを上回って168と相当の増加となっている。常磐・郡山においても,人口では112と若干の増加であるにすぎないのに,業過を除く刑法犯では124とかなりの増加となっている。また,鹿島においても,人口では140と増加しているのに,業過を除く刑法犯では,人口の増加率をはかるに上回って407と激増しているのが注目される。

I-21図 代表的な開発地域における業過を除く刑法犯の発生件数及び人口の推移(昭和38年〜48年)

 次に,これらの人口増加と犯罪との関連をいっそう明確にするとともに,人口10万人当たりの犯罪の発生密度をみるため,昭和38年から48年までの代表的な開発地域における業過を除く刑法犯の発生率の推移を図示したのが,I-22図である。これによると,岡山県南における業過を除く刑法犯の発生率は,38年の1,971.6という高率から48年の全国平均を若干上回る1,110.0にまで下降している。播磨では,38年には1,153.6と比較的低率であったが,48年には780.3と更に低い比率に下降している。過去10年間で岡山県南及び播磨において発生率が低下しているのは,先に述べたとおり,この両地域では,人口が増加しているにもかかわらず,業過を除く刑法犯が減少しているためである。一方,常磐・郡山では,38年には1,098.5と比較的低率であったが,その後は起伏のある動きを示し,48年には1,211.8と上昇している。また,道央では,38年には1,440.9と全国平均を若干上回る発生率であったが,その後は上昇傾向をたどり,48年には1,849.7という高率となっている。鹿島では,38年には414.4と著しく低率であったが,その後は急激に上昇し,47年以降は下降に転じているものの,48年には1,206.6と全国平均を上回る比率となっている。先に述べたとおり,常磐・郡山,道央,鹿島では,過去10年間に業過を除く刑法犯が人口の増加率を上回る割合で増加しているため,その発生率は上昇傾向を示しているのである。

I-22図 代表的な開発地域における業過を除く刑法犯の発生率(昭和38年〜48年)

 以上検討したところをまとめると,過去10年間に,各開発地域において開発が進行し,工業化・都市化が進展するに伴い,業過を除く刑法犯の発生率は,岡山県南及び播磨では下降しているのに対して,常磐・郡山では起伏を示しながらも若干上昇し,道央及び鹿島では急激な上昇をみせている。このように,開発の進展に伴って,ある地域では犯罪が増加し,他の地域では犯罪が減少しているが,各地域における犯罪の増加又は減少はそれぞれの複雑な要素に関連するので,その要因を解明し,開発に伴う社会変動と犯罪動向との関係を究明することは,今後の総合的な調査研究に待たなければならない。しかし,過去10年間に業過を除く刑法犯が急激に増加している道央及び鹿島の両地域では,かなり急速な開発が行われてきたことを考慮するとき,開発に伴う犯罪の増加を防止するためには,開発の過程において,犯罪防止対策を十分に整備することはもとより,産業開発と社会開発の調和のとれた着実な開発計画の実施が必要であるといえよう。

(3) 地域開発と犯罪動向

 地域開発は,その地域の自然的条件を考慮し,経済,社会,文化等に関する施策の総合的見地から,地域を社会的,経済的に開発することであり,住民の生活水準の向上とその地域の社会的,文化的諸条件の発展を目的としている。しかし,現実の開発において,開発計画自体やその実施過程にそごがあり,産業開発に偏重し,住民の福祉の向上等の社会開発がおろそかにされるなどの場合に,犯罪などの社会的病理現象が多発し増加する危険を伴う。すなわち,開発に伴って工業化が進展するとともに,他の地方から多数の人々が流入し人口が増加することも加わって,社会の都市化が促進される。また,産業化しつつある社会における地理的,社会的な移動性及び物質主義に方向づけられた家庭の増加などにより,家庭的なきずなが弛緩する場合が多い。一方,社会的背景の異なった人々の流入及び社会構造の変化は,社会の内部に様々な生活意識,規範意識及び行動様式を生み出し,それらの矛盾を増大させるとともに,非公式な社会的統制を弱化させる傾向がみられる。また,開発の進展に伴って,工場その他の施設の建設資材が集中し,原料,工業製品,商品などの物品の保管が増加し,土地,建物など不動産の価格が騰貴する傾向がある。一般に,このような富の蓄積に比して.その管理についての経験に乏しく,また,防犯対策が十分でないことが多い。開発に伴う社会変動に対応した社会福祉及び犯罪防止対策が十分でないとき,犯罪などの社会的病理現象の発生を増加させることになるのである。
 先に検討したとおり,全国の新産及び工特の開発地域24か所のうち,過去10年間に業過を除く刑法犯の発生件数の増加している地域は鹿島など11か所であるが,その発生率の上昇している地域は鹿島など6か所にとどまるという事実は,その他の開発地域では犯罪防止対策等が相当の効果を挙げていることを示すものである。しかし,逆に,最近の我が国において業過を除く刑法犯が減少する傾向の中にあって,これら開発地域のうちで数か所において業過を除く刑法犯の発生率が増加していることは,開発地域における犯罪対策がいかに重要であるかを示すものであろう。また,先に代表的な開発地域の犯罪動向の項で検討したとおり,開発地域では特に窃盗などの財産犯及び道路交通による業務上(重)過失致死傷に対する取締対策が重要な課題となっている。そして,一般に,地域開発において,開発の主要目標の達成に影響を与えることなく,犯罪発生要因を減少させ,犯罪抑止要因を強化させるために,開発の当初から,開発計画の中に,これらの犯罪防止対策を含む社会防衛対策を組み入れる必要性が痛感されるのである。