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 昭和49年版 犯罪白書 第1編/第2章/第3節/2 

2 女性犯罪の特色

 昭和48年に検察庁で既済となった刑法犯と特別法犯(道交違反を除く。)の被疑者について年齢層別及び男女別に示したのが,I-44表である。これによると,男女合計中に占める女性の割合は,総数において8.5%であるが,これを年齢層別にみると,その割合は,20歳以上35歳未満までは比較的低率であるのに対して,20歳未満では相当高く,また,35歳以上では高年齢となるに従って高率となり,60歳以上では13.1%となっている。

I-44表 被疑者の検察庁受理時の年齢層別・男女別人員(昭和48年)

 また,同じく昭和48年に検察庁で起訴又は起訴猶予となった刑法犯の男女別被疑者について,初犯者と罰金以上の前科のある者を分けてみると,I-45表のとおりであり,初犯者は,男性の場合には63.6%にすぎないが,女性の場合には88.6%に達している。

I-45表 刑法犯被疑者・男女別,初犯者・前科者別の比較(昭和48年)

 次に,昭和48年に検察庁で既済となった主要刑法犯について,男女別人員と男女合計中に占める女性の比率をみたのが,I-46表である。これによると,子供の出産や育児に関連のある嬰児殺,過失致死傷,遺棄などの犯罪では,女性の占める割合が高くなっている。これに反して,暴行,傷害,強盗,恐喝などの暴力的な犯罪では,女性の占める比率が極めて低くなっているが,これは女性の身体的,心理的特性を反映しているものといえよう。

I-46表 刑法犯被疑者の主要罪名別・男女別人員と女性の占める比率(昭和48年,昭和44年〜48年の平均値)

 ここで,最近特に社会的関心を集めている嬰児殺の動向と特質をみることとする。I-12図は,戦後における嬰児殺の発生件数と検挙人員を示したものであるが,戦後における嬰児殺の発生件数は,終戦直後の昭和22年ないし25年に310件ないし399件を数えた後,漸減傾向をたどり,33年の141件にまで減少した。その後は170件ないし220件の間で増減を繰り返し,48年には前年より22件増加して196件となっている。嬰児殺め検挙人員の推移も発生件数と同様の経過をたどっているが,検挙人員中に占める女性の割合は,21年の72.8%からおおむね上昇傾向をたどり,48年には92.4%に達していることが注目される。

I-12図 嬰児殺の発生件数・検挙人員の推移(昭和20年〜48年)

 次に,最近の嬰児殺の特徴を明らかにするため,法務総合研究所では,昭和47年中に,生後1年未満の嬰児又は乳児を殺害(未遂を含む。)したことにより,全国の地方検察庁で起訴若しくは不起訴(嫌疑なし,嫌疑不十分等を除く。)となり又は裁判所で裁判が確定した全数163名について実態調査を行った。この調査対象について,出産中又は出産後24時間以内に嬰児を殺害した嬰児殺群と出産後1日を超え1年未満の乳児を殺害した乳児殺群に分けると,嬰児殺群は96名(うち未遂3名)であり,乳児殺群は67名(うち未遂7名)であった。この両群に共通する特徴としては,被疑者のほとんどが女性(嬰児殺群では総数の95%,乳児殺群では93%)で,年齢が30歳未満(嬰児殺群で78%,乳児殺群で79%)であり,学歴が低く,前科前歴がないことが挙げられる。しかし,I-13図14図15図に示すとおり,犯行の主体,動機,手段等においてこの両群の間には著しい差異が認められた。すなわち,嬰児殺群では,被疑者の半数は未婚(46%)であり,世間体を恥じ(38%)又は貧困(22%)などの動機により,出産中又はその直後(76%)に殺意を生じ,単独(83%)で,自宅又は自室(77%)などにおいて,墜落産(26%),放置(18%),鼻口圧(17%)などの方法により,自己の子供(94%)を殺害し,便所などに死体を遺棄(78%)してしいる事例が多い。そのほか,被疑者 の17%の者が出産前から殺意をもち計画的な犯行を行っていたことが注目される。これに対して,乳児殺群では,被疑者の大部分は既婚(93%)であり,ノイローゼ(30%)又は家庭不和(22%)などの事由により,出産後(76%)に殺意を生じ,単独(100%)で,自宅又は自室(64%)などにおいて,絞殺(22%),溺殺(21%)又はガス殺(16%)などの方法により,自己の子供(97%)を殺害したもので,死体遺棄を行っていない(82%)場合が多くなっている。この乳児殺群では,出産前から殺意をもっていたのはわずか3%にすぎず,出産後の育児又は家庭生活での精神的かっ藤に起因する親子心中又は心中くずれの事件が48%を占めていることが特徴的である。このように,同じ乳幼児の殺害であっても,出産中又はその直後の新生児の殺害と,もう少し生育した乳児の殺害では,犯行の内容にかなりの質的な差異が認められる。また,過去の嬰児殺に関する調査結果と比較すると,最近の嬰児殺の特徴は,犯行のほとんどが新生児の母親によって行われ,母親の親族又は新生児の父親などの男性の関与する事例が少なくなったことと,いわゆる私生児殺しが減少した反面,嫡出子の殺害が増加したことである。

I-13図 嬰児殺等被疑者の配偶関係別人員の百分比(昭和47年)

I-14図 嬰児殺等の動機別人員の百分比(昭和47年)

I-15図 嬰児殺等の殺害方法別人員の百分比(昭和47年)

 次に,昭和48年に検察庁で既済となった特別法犯について,男女別人員と男女合計中に占める女性の比率をみたのが,I-47表である。これによると,女性の占める割合は,売春防止法違反において著しく高く,あへん法,風俗営業等取締法の各違反でも比較的高率となっている。これらの犯罪では,女性が,売春婦,けしの栽培者,風俗営業の従業員等として,各法律に違反する機会が多いためである。

I-47表 特別法犯被疑者の主要罪名別・男女別人員と女性の占める比率(昭和48年)