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 昭和48年版 犯罪白書 第1編/第3章/第1節 

第1節 犯罪の地域的動向

 我が国の犯罪は,最近における社会変動の中にあって,地域的にみると,どのような変化を示しているであろうか。
 ここでは,まず,最近10年間における,我が国の犯罪の地域的動向をみてみよう。
 I-65表は,都道府県別に,47年の業務上(重)過失致死傷を除く刑法犯(業過を除く刑法犯)の発生件数と人口10万人当たりの発生件数(発生件数の人口比。以下,「発生率」という。)を37年と対比してみたものであり,I-4図[1][2]は,都道府県別に,その発生率を図示したものである。

I-65表 業過を除く刑法犯の都道府県別発生件数及び発生率(昭和37年,47年)

I-4図 業過を除く刑法犯の都道府県別発生率

 まず,I-65表により,昭和47年における業過を除く刑法犯の発生率の高い順に10都道府県を挙げると,東京(1,811),北海道(1,600),香川(1,556),福岡(1,429),徳島(1,419),滋賀(1,331),高知(1,299),神奈川(1,271),大阪(1,265),京都(1,190)である。一方,業過を除く刑法犯の発生率の低率のもの10県を挙げると,岐阜(670),鹿児島(684),長野(698),岩手(723),富山(753),山形(794),熊本(804),鳥取(805),宮崎(811),茨城(811)である。これを地方別にみると,北海道,四国,関東の各地方において発生率が高く,中部,東北の各地方においては低くなっている。
 昭和37年と比較すると,全国的には,37年の発生率1,455から47年の1,144へと減少を示しており,地方別にみても,いずれの地方も発生率は減少しているが,四国,北海道,関東の各地方は,発生率の減少の程度が比較的小さく,近畿,中部地方では減少の程度が著しい。このような発生率の全般的な減少傾向の中で,37年と比較して発生率が増加しているのは,増加の割合の大きい順にみると,徳島(39.5%の増),奈良(21.2%の増),島根(14.9%の増),千葉(12.2%の増),福井(6.8%の増),香川(2.4%の増),滋賀(2.1%の増)の7県である。上記7県以外の都道府県は,いずれも発生率が減少しているが,減少の割合の大きいものを挙げてみると,最も減少の程度の著しいのが熊本(44.4%の減)で,以下,大阪(43.1%の減),兵庫(42.9%の減),愛知(39.7%の減),宮崎(39.3%の減),京都(35.7%の減),岐阜(34.1%の減),愛媛(32.4%の減),山形(29.2%の減),秋田(28.9%の減)の順となっている。
 また,37年において,発生率の最高は大阪の2,225,最低は岩手の750で,発生率の最高は最低の3.0倍であったが,47年における発生率の最高は,東京の1,811,最低は岐阜の670で,発生率の最高は最低の2.7倍となり,発生率の分布の幅が狭まってきている。発生率の全国平均からの分布をみてみると,37年では全国平均(1,455)から上下300の間に14(30.4%),400の間に27(58.7%),500の間に33(71.7%)の都道府県が分布しているのに対し,47年では,全国平均(1,144)から上下300の間に32(69.6%),400の間に39(84.8%),500の間に45(97.8%)の都道府県が分布している。このようにして,各都道府県間の業過を除く刑法犯の発生率の格差は縮小してきており,犯罪発生率の平準化とも呼ぶべき現象を呈していることが明らかに認められる。
 次に,刑法犯を財産犯,凶悪犯,粗暴犯,性犯罪,過失犯罪(第1編第1章における説明参照)に分かち,それぞれの罪種について,地方別,都道府県別に発生率を概観してみよう。I-66表ないしI-68表は,47年における上記の各罪種の発生件数と発生率を地方別に37年と対比してみたものであり,I-5図[1][2]ないしI-9図[1][2]は,37年と47年について上記の各罪種の発生率を都道府県別に図示したものである。

I-66表 地方別財産犯及び凶悪犯の発生件数及び発生率(昭和37年,47年)

I-68表 地方別過失犯罪の発生件数及び発生率(昭和37年,47年)

I-5図 財産犯の都道府県別発生率

I-9図 過失犯罪の都道府県別発生率

 まず,I-66表及びI-5図[1][2]により,財産犯の地域的動向をみることとする。昭和47年について,地方別に財産犯の発生率をみると,最も高率なのが北海道(1,406)で,以下,四国(1,170),関東(1,098),近畿(1,041)の順となっており,発生率の低い地方は,東北(747),中部(782)などである。都道府県別に,47年における財産犯の発生率についてみると,最も高いのが東京(1,575)で,香川(1,421)がこれに次ぎ,以下,北海道(1,406),徳島(1,304),福岡(1,257),滋賀(1,209),高知(1,140),大阪(1,123),神奈川(1,114),京都(1,053)の順となっている。発生率の低い県は,鹿児島(571),長野(597),岐阜(599),岩手(618),富山(636)などである。
 37年と47年のいずれにおいても,財産犯の発生率が上位から10位以内にあるのは,北海道,東京,大阪,京都,香川,福岡の6都道府県であり,37年に最低位から10位以内にあったもののうち,岩手,茨城,長野,長崎,鹿児島の5県は,47年においても最低位から10位以内にある。これによってみると,財産犯の都市集中的傾向は,なお相当程度に認められるとはいうものの,この10年間の社会の変動は,財産犯の地域的分布について,緩やかながら,変化をもたらしているといえよう。
 昭和37年と比較してみると,全国の財産犯の発生率は,37年の1,222から47年の1,007へと減少している。地方別にみると,関東においてのみ財産犯の発生件数が増加しているが,発生率の面からみると,各地方とも減少しており,中でも,近畿と中部の両地方において減少の割合が大きく,四国,北海道,関東の各地方においては減少の割合が比較的小さい。これを都道府県別にみると,37年と比較して財産犯の発生率が増加したのは,徳島(58.3%の増),奈良(42.1%の増),千葉(30.4%の増),島根(21.3%の増),福井(20.8%の増),滋賀(16.5%の増),岩手(12.0%の増),茨城(7.9%の増),埼玉(7.9%の増),香川(6.0%の増),佐賀(5.0%の増),三重(4.8%の増),和歌山(3.6%の増),長野(0.3%の増)の14県である。その他の都道府県においては,いずれも発生率が減少しているが,その減少の程度の著しい府県をみると,大阪(43.8%の減),兵庫(41.7%の減),熊本(41.0%の減),愛知(38.4%の減),宮崎(36.6%の減),京都(34.1%の減),岐阜(31.5%の減)などの府県である。財産犯の発生率が増加している県は,概して,37年における発生率の低い県であり,発生率の減少の程度の著しい府県は,概して37年における発生率の高い府県であるので,財産犯の発生率についても,都道府県間の犯罪発生率の格差が縮小していることを指摘することができる。
 次に,凶悪犯についてみてみよう。昭和47年における凶悪犯の発生率を地方別にみると,最も高率なのが九州(5.0)で,以下,近畿(4.9),四国(4.7),関東(4.4),北海道(4.1),中国(3.8),中部(2.6),東北(2.5)の順となっている。都道府県別では,福岡が7.7と全国最高であって,これに和歌山の7.1が次ぎ,以下,高知(5.8),神奈川(5.6),東京(5.5),兵庫(5.3),大阪(5.2)の順となっている。発生率の低いところは,福井が1.3と全国最低であり,以下,山形(1.7),三重(1.9),秋田(2.1),富山(2.5),京都(2.5),鹿児島(2.5)の順となっている。
 37年と47年のいずれにおいても,高率の凶悪犯が発生している都府県は,九州では,福岡(37年の発生率全国第3位),近畿では和歌山(同第7位),兵庫(同第2位),大阪(同第1位),関東では,神奈川(同第4位),東京(同第6位)である。
 37年との対比においてみると,凶悪犯の発生率は,全国では,37年の6.8から47年の4.2へと減少しており,地方別にみても発生率が増加している地方はないが,四国では,減少の割合が比較的少ないのに対し,近畿,中部では,発生率が37年の約2分の1へと大幅に減少していることが目立っている。このように,凶悪犯の発生率が全国的に減少の傾向をみせている中で,長野,石川,鹿児島,群馬,滋賀,高知,鳥取の7県において,発生率が増加を示している。
 これら増加7県の37年における凶悪犯の発生率をみると,高知が18位であった以外は,いずれも30位以下であったが,47年には,高知,群馬,鳥取の3県は10位以内となっており,その他の4県は,発生率は増加したものの全国的には,20位以下の低順位にとどまっている(I-66表及びI-6図[1],[2]参照)。

I-6図 凶悪犯の都道府県別発生率

 次に,I-67表及びI-7図[1][2]により,粗暴犯の地域的動向を概観してみることとする。まず,昭和47年について,粗暴犯の発生率を地方別にみると,最も高率なのが北海道(121)で,以下,九州(96),関東(88),近畿(87),中国(83),四国(80),東北(62),中部(50〉の順となっている。都道府県別では,東京の147が最高で,北海道の121がこれに次ぎ,以下,福岡の118,長崎の115,高知の104,大阪の98,広島の97,神奈川の95,岡山の91,大分及び熊本の88の順となっている。粗暴犯の発生率の低い県は,岐阜(41),静岡(42),千葉(45),愛知(45),宮城(51),群馬(51),三重(52),埼玉(53),新潟(53)などである。

I-67表 地方別粗暴犯及び性犯罪の発生件数及び発生率(昭和37年,47年)

I-7図 粗暴犯の都道府県別発生率

 37年と47年のいずれにおいても,粗暴犯の発生率が高い都道府県は,東京(37年の発生率全国第5位),北海道(同第7位),福岡(同第2位),長崎(同第6位)などである。
 粗暴犯の発生率は,全国的にみると大幅に減少して37年の2分の1となっており,37年と比較すると,いずれの地方においても減少しているが,中部において減少の割合が特に著しい。なお,いずれの都道府県においても,粗暴犯の発生率は減少しているが,減少の割合の大きい県は,群馬(78.2%の減),千葉(68.3%の減),埼玉(67.1%の減),愛知(65.1%の減),富山(63.9%の減),岡山(63.5%の減),宮城(62.8%の減),宮崎(62.6%の減)などであり,減少の程度がそれほど大きくないのは,島根(34.4%の減),東京(34.4%の減),高知(35.4%の減),北海道(36.6%の減),福井(38.8%の減),香川(39.7%の減)などである。
 次に,地域による性犯罪の発生率をみてみることとする。昭和47年における性犯罪の発生率を地方別にみると,最も高いのが北海道(16.8)で,関東(13.3)がこれに次ぎ,以下,四国(12.2),中国(12.1)の順となっている。一方,発生率の低いのは近畿地方(9.5)である。これを都道府県別にみると,東京が16.9で全国の最高であり,これに続くのは,北海道の16.8,神奈川の16.0,鳥取の15.9,富山の15.9,静岡の14.0,栃木及び香川の13.6,山形及び愛媛の13.4である。発生率の低い県は,奈良(4.7),三重(5.5),鹿児島(6.8),和歌山(7.5),青森(8.1)などである。昭和37年と対比してみると,全国の性犯罪の発生率は,37年の11.8から47年の11.9へと若干の上昇をみせているが,地方別にみると,関東と近畿で発生率が減少している。発生率の増加の割合が比較的大きいのは北海道で,減少の割合の比較的大きいのが近畿である。性犯罪の発生率は23都道県で増加しているが,増加の割合の著しいものは,島根(207.1%の増),神奈川(53.8%の増),岩手(51.7%の増),鳥取(43.2%の増),北海道(38.0%の増)などであり,一方,発生率の減少の割合の著しいものは,三重(47.1%の減),群馬(42.5%の減),徳島(29.5%の減)などである。発生率の順位でみると,37年と比較して著しい変化を示しているのは,37年に4位であった群馬が47年には38位に後退し,37年に15位であった北海道が47年には2位に,37年に28位であった神奈川が47年には3位に,37年に21位であった鳥取が47年には4位に,それぞれ進出したことなどが目立っている(I-67表及びI-8図[1][2]参照)。

I-8図 性犯罪の都道府県別発生率

 最後に,過失犯罪についてその地域的動向をみてみよう。過失犯罪の動向は,その大部分を占める自動車交通に起因する業務上(重)過失致死傷の動向と一致するものとみてよいであろう。まず,I-68表によって,昭和47年における過失犯罪の発生率を地方別にみると,中国が699で最も高い率を示しており,四国(682),九州(676)の両地方がこれに続いている。発生率が低いのは,北海道,東北及び関東である。都道府県別では,福岡が874で全国最高であり,以下,広島(872),京都(858),佐賀(794),徳島(768),和歌山(763),香川(750),石川(746),岡山(724),栃木(720)の順となっている。過失犯罪の発生率が低いのは,東京(352),山形(376),秋田(456),神奈川(465),岩手(468),岐阜(471),長野(475),宮城(477)などである。
 昭和37年と比較してみると,過失犯罪の発生率は,全国で37年の156から47年の564へと約3.6倍に大幅に増加している。いずれの地方においても,発生率は増加しているが,四国において増加の割合が極めて大きく,37年の5倍以上となっており,中部及び中国では37年の2.5倍前後の増加となっている。最近10年間における発生率の増加の割合の大きい府県としては,京都(666.0%の増),鹿児島(611.7%の増),徳島(556.4%の増),石川(516.5%の増),愛媛(473.8%の増),佐賀(447.6%の増),新潟(445.2%の増),兵庫(443.8%の増),福島(419.3%の増),青森(410.2%の増)などがあり,増加の割合が比較的小さい県としては,滋賀(47.0%の増),山口(139.7%の増),山形(147.4%の増),神奈川(148.7%の増),埼玉(154.2%の増),千葉(156.1%の増)などがある。