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 昭和47年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/1 

1 家庭

(一) 保護者の状況

 家庭は,子どもがはじめて接触する社会的環境であり,人格形成の基本的な場として重要である。それだけに,子どもに対する家庭の基本的な機能,すなわち,保護的機能や教育的機能などに障害があれば,それは,子どもの情緒を不安定にし,その行動に好ましくない影響をあたえ,ひいては犯罪などの逸脱行動へと導く危険性があることは,しばしば指摘されているところである。親の欠損は,家族間のかっとう・緊張などとならんで,子どもに対する家庭の基本的機能に障害をあたえやすい要因のひとつといわれる。
 III-21表は,全国の家庭裁判所が取り扱った一般保護少年(少年保護事件中より道路交通法違反および自動車の保管場所の確保等に関する法律違反事件を除いた事犯の少年)の保護者の状況を示したものであるが,これによると,過去一〇数年の間に,かなりの変化がみられる。昭和四四年以後統計の基準が変更(III-21表の注参照)されているので,過去の数字との正確な対比はできないが,およその傾向として,実父母のある者の割合は,三〇年や三五年に比較して,かなりの増加を示している。また,死亡,別居,離婚などにより,親の一方を欠いている実父のみの家庭,実母のみの家庭,すなわち,片親欠損家庭の割合は,あわせても一五%に満たず,三〇年の三四・六%に比べて,大幅の減少をみせている。

III-21表 一般保護少年の保護者の状況(昭和30,35,40,45年)

 従来,欠損家庭出身の犯罪少年が多くみられたことから,欠損家庭の問題は,少年犯罪と関連する諸要因のひとつとして重視されてきたが,最近では,欠損家庭が減少していることと,欠損家庭以外においても多くの犯罪少年がみられることから,両親のそろった家庭における機能面の障害についても,重視されるようになり,都市化,核家族化などにともなう新しい家族病理現象の発生が注目されている。
 次に,一般保護少年の保護者について,その経済的生活程度を,昭和三〇年,三五年,四〇年,四五年の各年次別にみると,III-22表が示すとおり,この一〇数年間の傾向として,「普通」の増加と,「貧困」,「要扶助」の減少とが目だっている。すなわち,構成比でみると,三〇年において,「普通」が二九・八%,「貧困」および「要扶助」があわせて六九・四%であったのに対し,四五年においては,前者が七六・〇%,後者が二一・三%と,両者の占める比重がまったく逆転している。このような推移は,最近のわが国における一般的な所得水準の上昇を反映しているものであり,従来,犯罪の一要因として重視されてきた貧困問題の比重が,相対的に低下していることを示している。そして,いわゆる中流家庭出身の犯罪少年が増加している最近の現象については,単に,家庭の経済的状態の側面からだけでなく,現在進行中の社会的,文化的な変動との関連において,それらが家庭生活にもたらしている新たな病理現象の側面からも,検討を加え,解明していくことが必要と思われる。

III-22表 一般保護少年の保護者の経済的生活程度(昭和30,35,40,45年)

(二) 保護者の職業・経済状況

 法務省特別調査によって,犯罪少年の保護者の職業構成をみると,III-23表に示すように,工員,運転手などの,いわゆるブルー・カラー的職業が最も多く,全体の三六%をこえる割合を占めている。その次に多いのが,農・林・漁業の二〇・五%で,管理者,事務員,専門技術職などの,いわゆるホワイト・カラー的職業は,一五%に満たない。

III-23表 罪種別にみた犯罪少年の保護者の職業(昭和46年)

 また,保護者の職業と少年の罪名との関係についてみると,ブルー・カラー的職業では,強姦・わいせつが三八・六%,ホワイト・カラー的職業では,詐欺・横領が二〇・〇%と比較的多く,農・林・漁業では,強盗・殺人が二八・〇%と多くなっている。しかしながら,保護者の職業と子の犯罪との間に直接的な因果関係を認めがたいことはいうまでもなく,むしろ,家庭の所属する社会階層やその文化的背景と少年犯罪との間の関係について究明することが必要と思われる。