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 昭和46年版 犯罪白書 第一編/第二章/九 

九 学生による集団暴力犯罪

 一部の学生を中心とする過激な集団暴力事件は,昭和四二年一〇月のいわゆる第一次羽田事件以来,学園の内外を問わず,全国各地にひん発した。その数は,昭和四三年から四四年にかけて,著しい増加を示し,この種事件により検挙された者の数も飛躍的に増加し,昭和四三年は約六,六〇〇人,四四年はその二倍以上にあたる約一五,〇〇〇人に達し,両年とも,その八割以上を学生が占めていた。しかし,昭和四五年に入ると,学園の正常化等に伴い,この種事件の発生件数も減少するに至った。しかし,一部の過激学生は,日航機のっとり事件,交番襲撃事件,銀行襲撃事件等に加担するほか,街頭行動においても,しばしば,過激な越軌行動に出ており,その動向には,けっして楽観を許さないものがある。
 昭和四三年以降発生した学生を中心とする集団暴力事件被疑者の全国検察庁における受理および処理の状況は,I-67表に示すとおりであるが,昭和四五年に発生した事件の受理人員は四,五五八人で,四四年のそれの約三分の一となっている。このうち,勾留請求されたのは,六六・四%にあたる三,〇二六人(四四年は九,八一二人,以下同じ。),勾留状の発布をみたものは,二,〇二四人(七,五八〇人)で,勾留請求人員の六六・九%(七七・三%)である。次に処理状況をみると,昭和四五年にあっては,被疑者四,五五八人の中で,起訴された者が七九三人(三,四八二人),不起訴が二,四二七人(六,五四四人),家裁送致が一,一三三人(二,八三八人)で,起訴と不起訴の合計の中に占める起訴の比率は,二四・六%(三四・七%)である。

I-67表 学生集団暴力事件受理処理状況(昭和43〜45年)

 次に,昭和四三年から四五年までの間に発生したこの種事件により起訴された被告人五,〇二二人に対し,第一審裁判の有無,裁判の結果を,昭和四六年五月三一日現在で調査すると,I-68表のとおりである。これによると,第一審裁判のあった者は,総数の四五・三%にあたる二,二七四人で,その九八・六%にあたる二,二四二人が有罪,一八人が無罪,二人が刑の免除,一二人が公訴棄却となっている。

I-68表 集団事件の第一審裁判結果(昭和46年5月31日現在)

 有罪となったこの二,二四二人について,その内容をみたのが,I-69表および70表である。刑の種類では,懲役が最も多く,二,〇六〇人と有罪総数の九一・九%を占め,以下,罰金の一六四人(七・三%),科料一五人,禁錮二人,拘留一人の順となっている。懲役に処せられた者のうち,実刑となった者は,二一六人(一〇・五%),執行猶予の付せられた者は,一,八四四人(八九・五%)である。次に,懲役の刑期についてみると,実刑となった二一六人のうち,最も多いのが一年をこえ二年以下の一一八人で,実刑となった者の五四・六%を占め,次いで六月をこえ一年以下の四六人,六月以下の二六人,二年をこえ三年以下の一九人,三年をこえる七人となっている。刑の執行を猶予された者にあっては,一,八四四人のうち,四一・六%にあたる七六七人が六月をこえ一年以下の刑に処せられ,三二・九%にあたる六〇七人が一年をこえ二年以下の刑に処せられ,二一・六%にあたる三九八人が六月以下となっている。執行猶予が付された禁錮刑の二人は,いずれも六月以下の刑に処せられたものである。また,罰金額では,一六四人のうち,一万円をこえ三万円以下が八一人,一万円以下が七一人と,この両者で罰金刑の九二・七%を占めている。

I-69表 集団事件の科刑状況(昭和46年5月31日現在)

I-70表 集団事件の科刑の内容(昭和46年5月31日現在)

 学生らによる集団暴力事件で検挙された少年に対する家庭裁判所の処理状況については,少年の公安事件に対する家庭裁判所の処理状況をみたI-71表が参考となろう。同表は,昭和四五年一月一日から同年一二月三一日までの間における全国の家庭裁判所の処理状況をみたものであるが,処理総数二,二五七人のうち,刑事処分相当として検察官に送致されたものは,総数の二・五%にあたる五七人(このほか,二〇歳以上であることが判明したため,少年法第一九条第二項によって検察官送致されたもの二〇人),少年院に送致されたものはなく,保護観察に付された者は,六・三%の一四三人,不処分は,五一・一%にあたる一,一五四人,審判不開始は,三九・一%にあたる八八三人となっている。

I-71表 少年の公安事件に対する家庭裁判所の処理状況(昭和45年)