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 昭和46年版 犯罪白書 第一編/第二章/二/4 

4 麻薬・覚せい剤関係

 次に,麻薬・覚せい剤関係の特別法犯について,最近五年間における新規受理人員の推移をみると,I-36表のとおりである。

I-36表 麻薬・覚せい剤関係特別法犯検察庁新規受理人員(昭和41〜45年)

 麻薬取締法違反は,逐年大幅に減少を続けており,昭和四五年は,LSDが新たに麻薬に指定されたにもかかわらず,前年よりわずかに減少し,昭和四一年を一〇〇とする指数で示すと,二六にすぎない。あへん法違反は,昭和四三年において,若干増加したほかは,逐年減少し,昭和四五年は,四一年を一〇〇とする指数で示すと,二四にすぎない。これらに対し,大麻取締法違反は,昭和四二年以降,逐年増加の傾向にあったが,四五年はさらに急激に増加して,前年の約一・七倍となり,四一年を一〇〇とする指数で示すと四五一に達している。また,覚せい剤取締法違反は,昭和四四年までは,起伏はありながらも漸増の傾向を示していたところ,四五年には,さらに大幅に増加して,前年の約二・三倍となり,四一年を一〇〇とする指数で示すと二三三となっている。
 麻薬・覚せい剤等の薬物乱用は,個人をむしばむのみならず,国家・民族の衰亡にもつながる危険な社会的病弊であり,この種事犯に対しては,きびしい態度で臨むべきであることは,いうまでもないところであるが,この種事犯がわが国で注目を浴びたのは,戦後においてである。昭和二〇年代後半に,覚せい剤取締法違反が激増し,二九年には,最盛期に達して年間受理人員が五万人をこえたが,三一年以降急激に減少し始め,一時はほとんど根絶に近い状態になった。しかし,これに代わって,へロインを中心とする麻薬取締法違反が登場して,昭和三七,八年には,最盛期となり,年間受理人員は三千人をこえたが,徹底した検挙処理,罰則強化等の措置によって,三九年以降急速に減少した。昭和四五年には,大麻取締法違反および覚せい剤取締法違反の激増をみるに至り,三たび,この種犯罪まんえんの危機が訪れようとする気配がうかがわれるところである。
 昭和四五年の麻薬・覚せい剤犯罪の実態につき,警察庁の調査結果によると,麻薬取締法違反では,検挙人員の四五・五%がLSD事犯によるものであり,医療麻薬事犯は,三八・六%となっている。あへん法違反では,検挙人員の九一・九%がけしの不正栽培事犯である。昨年より大幅に増加した大麻取締法違反にあっては,密売,所持事犯の増加がとくに著しく,さらに,従来は,ほとんどが外国産大麻に関する事犯であったところ,国内産大麻に関する事犯が増加したこと,検挙人員中,二四歳以下の青少年層が七九・六%を占めて,前年の五七・七%を上回っていることが注目される。次に,検挙人員を職業別にみると,米軍人が二二・九%,船員が一八・〇%,芸能関係者一三・一%,無職(主としてヒッピー,フーテン)一二・三%,接客婦(主としてバーのホステス)七・九%となっており,米軍人,外国船員およびこれに接触する機会の多い日本人ヒッピー,バーのホステス等の間で,大麻が取引,吸煙されていることや芸能関係者等の間にも大麻吸煙の悪習がはびこりつつあることを示している。覚せい剤取締法違反も昭和四四年に比し検挙人員が大幅に増加しているが,とくに増加の著しいのは,密売事犯である。検挙人員を年齢別にみると,二〇歳台が四四・三%,三〇歳台が四二・〇%を占めている。なお,検挙人員中,暴力団関係者の占める割合は,五九・五%と圧倒的に高く,しかも前年の五二・一%を上回っていることは,覚せい剤の密売が,暴力団の有力な資金源となり,組織を通じて取引きされていることを示すものとみられる。かつて,麻薬,とくに,へロインの密売に暴力団が関与したことが,へロイン事犯の急激な増加を招く一因となったことは,われわれの記憶に存するところであり,しかも,現に,暴力団の組織再編成の動きが高まっていることと相まち,力団対策とともに,この種事犯の撲滅のために,徹底した検挙,処理が望まれるところである。