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 昭和45年版 犯罪白書 第三編/第二章/一/2 

2 集団暴力犯罪の最近の傾向

 学生を中心とする集団暴力事件は,昭和四四年に入って,その数が増加しただけでなく,その手段方法に,凶悪化・過激化の傾向がみられる。このような傾向の現われを,たとえば犯行に供され,あるいは,準備された凶器数等からみると,昭和四四年一月の東大事件においては,それまでの,ヘルメットに身を固めて角材を携帯するという武装に加えて,石塊,火炎びん,鉄パイプ等の凶器が大量に準備され,かつ,使用されるに至っており,その後の一〇・二一国際反戦デー事件や,一一月の首相訪米阻止事件にあっては,火炎びん,それも自動点火式のものが,凶器の主流を占めるに至っている。また,一部において劇薬が投げられたり,赤軍派と称する過激分子が,鉄パイプ爆弾などを製造,準備して,首相官邸襲撃を企図する等の事件の発生をもみているところである。III-116表は,大学構内における押収凶器等の状況をみたものであり,III-10図は,昭和四四年中に,使用または押収された凶器を,三か月ごとにまとめて,その推移をみたものであるが,いずれも危険な凶器類の増加が著しいことを示している。ことに,同年の一〇月から一二月までのわずか三か月間に,使用または押収された火炎びんが,一万本を大きく上回っていることには,注目すべきものがあろう。

III-116表 大学構内における押収凶器等の状況

III-10図 凶器の使用または押収状況(昭和44年)

 一方,これら過激な集団暴力の対象も,警察官や学校当局,派閥を異にする学生団体等に限られず,一〇・二一国際反戦デー事件以後には,民間施設に乱入したり,凶器等を奪取するため,材木商やガソリンスタンドを襲うなど,無謀な行動の範囲が拡大されてきている。とくに,本年三月に発生した,赤軍派と称する学生の集団による日航機の乗っ取り事件は,同種の犯行が,世界にその例が少なくないとはいえ,わが国の学生による集団暴力事件にみられるところの,目的のためには手段を選ばぬ最近の傾向が,極端なかたちで現われたものとみることもできよう。
 また,最近のこの種事犯にみられる傾向の一つとしてあげられるのは,高等学校生や公務員の参加する事例が増加したことであろう。III-117表は,昭和四四年発生の事件のうち,さしあたって,四・二八沖縄デー事件,一〇・二一国際反戦デー事件,一一・一六〜一七首相訪米阻止事件について受理された被疑者の中で,学生と公務員とを取り出して,その割合をみたものであるが,発生の日時が後になるほど,高等学校生あるいは公務員,公社・公団の職員などの占める割合が,増加する傾向を示していることが注目されるところである。

III-117表 集団事件の学職別受理人員比較(昭和44年)