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 昭和45年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/4 

4 学校・職場

(一) 学生・生徒の犯罪

 文部省の学校基本調査報告書によれば,昭和四三年には,学齢に達している児童の九九・九%が義務教育を受けており,また,義務教育終了者のうち高等学校(定時制を含む。)に進学する者の割合は,昭和三〇年には五一・五%であったものが,同四〇年には七〇・七%,同四三年には七六・八%に増加している。さらに,高等学校終了者のうち大学(短大を含む。)に進学する者の割合も,昭和三〇年には一八・四%であったものが,同四〇年に二五・四%,同四三年には二三・一%となっている。
 このように進学率が高まり,多くの人々がより高い教育を受ける機会に恵まれることは,もとより好ましいことであるが,これら多数の進学者を受け入れる学校側の物的,人的体制が追いつけず,十分かつ適切でない場合には,教育は不徹底となり,落伍者や不適応者に対する指導体制が整わないままに,これらを非行に追いやることは,あらためて述べるまでもない。また進路選択が能力不相応であったり,過重な受験勉強にたえきれなくて非行に走る事例は,数多く指摘されている。
 III-34表は,刑法犯で検挙された少年(触法少年を含む。)について,身分別に,昭和三〇年,昭和三五年,昭和四〇年および四四年の人員および構成割合を示したものであるが,これによると,学生・生徒は,昭和三〇年には四六,二七九人で,全体の三八・二%であった。ところが,三五年には四七・四%,四〇年には五五・〇%に達したが,四四年には四五・七%となり,今日でも少年刑法犯の五割近くを占めている。

III-34表 学職別少年刑法犯検挙人員(昭和30,35,40,44年)

 次に,学校別に,少年刑法犯の検挙人員と,昭和三五年を一〇〇とした指数でその推移をみると,III-35表が得られる。これを概観すると,小学生は昭和三六年をピークとしてまっ先に減少傾向に向っているが,昭和四三年から再び増加の気配をみせている。中学生は二年遅れて昭和三八年がピークとなり,とくに昭和四〇年以降の減少傾向には著しいものがある。これに対し高校生では,そのピークが更に二年遅れた昭和四〇年に移り,四一年,四二年と減少したが,四三年からは再び増加の傾向をみせている。大学生になると,年々増加の傾向を示してきたが,昭和四二年頃から増勢は急激になり,昭和四四年は,昭和三五年の七倍をこえている。

III-35表 学職別少年刑法犯検挙人員の推移(昭和35〜44年)

 この増加を示している高校生と大学生の刑法犯検挙人員について,罪名別に,昭和四三年と四四年とを比較すると,III-36表にみるように,殺人,放火,傷害,わいせつ,業務上過失致死傷は,高校,大学生ともにふえており,そのほかに,高校生では窃盗,強盗,横領,大学生では強姦,暴行がふえている。ことに大学生では,昭和四三年には一件もみられない放火が,四四年には一〇四人となっているのが注目される。これは,学園紛争等の過激な集団暴力事件に関連したものであり,この学生による集団暴力事件については本編第二章にまとめて触れている。

III-36表 学校程度別・罪名別少年刑法犯の検挙人員(昭和44年)

 なお,III-37表は,家庭裁判所で取り扱った一般保護少年について,教育程度別に人員および構成比を,昭和四三年と,五年前の昭和三八年について比較したものであるが,これをみると,中学卒業に至らない義務教育未修了者は,実数・構成比ともに減少していることがわかる。これに対し,中学卒業程度の者は,その構成比は減少しているが実数の増加をみ,高校以上になると,実数・構成比とも,全般にわたって著しい増加がみられている。

III-37表 一般保護少年の教育程度(昭和38,43年)

 III-38表は,一般保護少年のうちの在学生について,学校内の問題行動の有無について調査した結果であるが,これによると,中学生では四四・一%,高校生では一七・一%に問題行動がみられている。

III-38表 一般保護少年のうち在学生の学校内問題行動(昭和43年)

 その内容についてみると,中学生では不良グループ関係が最も多く,長欠・怠学がこれに次いでおり,両者をあわせると問題行動の六五%になる。高校生でも,これらの問題行動が五七%を占めており,わずかな差ではあるが,長欠・怠学の方が多くなっている。
 次に,一般保護少年のうちの在学生について,中学生・高校生・大学生別に,主要罪名別の構成割合をみたのがIII-39表である。これによると,中学生では窃盗が八〇・四%で大多数を占めているのに対し,大学生では一〇・六%にすぎない。その差は,年少少年と年長少年におけるより顕著である。

III-39表 一般保護少年(刑法犯)の教育程度別在学生の罪名(昭和43年)

 中学生では,窃盗に次いで傷害,暴行,恐喝などの粗暴犯が多いが,いずれも三,四%程度にすぎない。
 高校生になると,業務上過失致死傷が四〇・〇%で最も多く,窃盗がこれに次いで三七・六%であり,傷害,恐喝,暴行がこれに続いているが,いずれも五%前後にすぎない。大学生では,業務上過失致死傷が六七・六%で圧倒的多数を占め,そのほかの罪名では,窃盗の一〇・六%や傷害の四・三%を除けば見るべきものはない。ただ,その他の一四・〇%の中に,学生の集団暴力事件関係が含まれていると考えられるが,この種の事件は昭和四四年にふえているので,この表ではそのすう勢をとらえることはできない。

(二) 有職少年の犯罪

 経済のめざましい成長とこれに伴う産業構造の変容は,都市産業を盛んにし,少年の雇用の機会を飛躍的に増大させている。しかし一方では,上級学校進学率の上昇と,少年人口の減少によって,都市産業は,若い労働力を必要としているにもかかわらず,労働力の供給は逆に減少し,この若年労働力における需要と供給のアンバランスは,最近の勤労青少年をめぐるいくつかの特異な現象となって現われている。その第一は,賃金の上昇と企業間格差の縮少であり,第二は,転退職者の増加である。求人難の大都市では,容易に次の職場がみつかるという安心感から,職場にささいな不満があれば,青少年はすぐに離職する傾向がみられ,職業意識の低下とあいまって,安易な転退職の傾向が著しくなっている。一方,農・山・漁村から大都市に流入してくる大量の勤労少年の中には,新しい環境に適応できなくなって,大都市の疎外と孤立の渦の中に巻きこまれる者も少なくなく,このような社会・経済的な背景を抜きにして,最近の少年犯罪の特質を論ずることはできない。
 III-40表は,昭和四〇年から四四年までの少年刑法犯(触法少年を含む。)検挙人員について,学生・生徒と職業の有無別に構成比の推移をみたものであるが,これによると,学生・生徒および無職少年がおおよそ減少の傾向を示しているのに対し,ひとり有職少年のみが増加傾向を示し,昭和四〇年の七八,七四八人から,昭和四四年の九九,八七〇人と,二七%の増加をみせている。

III-40表 学職別少年刑法犯(触法を含む)検挙人員(昭和40〜44年)

 III-41表は,昭和四〇年から四三年までの就業人口と対人口比率,および有職少年の犯罪率を示したものであるが,これによると,昭和四一年以降,就業人口および就業人口比率は減少傾向をみせているのに対し,有職犯罪少年の実人員および犯罪率は顕著な増加傾向を示している。

III-41表 就業状況および有職少年犯罪率(昭和40〜43年)

 次に,これら有職犯罪少年の職種を,家庭裁判所の一般保護事件についてみると,III-42表に示すとおり,最も多いのが技能工の三〇・八%で,以下,運輸・通信一三・九%,販売・外交員一二・二%,会社員六・八%,サービス従業員五・四%,労務者五・一%の順となり,農・林・漁業は四・一%にすぎない。これを一般の有職少年における職業別就業者の割合と比較すると,ホワイト・カラー職業,農・林・漁業などは犯罪少年になじみにくく,技能工,販売・外交員,運輸・通信などの職業はこれになじみやすいといえる。

III-42表 一般保護事件の職業別終局実人員(刑法犯)(昭和43年)

 法務省特別調査によって,罪名別に,学生・生徒,職業の有無別の構成割合をみると,III-43表にみるように,有職少年は傷害,暴行,強姦などの犯罪で,その構成割合が高く,例数は少ないが,殺人における著しい高率が注目される。これに対し無職者では,詐欺,恐喝,強盗などの割合が高くなっている。なお,法務省特別調査では,有職少年に多い業務上過失致死傷が除外されていることも注意しておく必要がある。

III-43表 職業の有無別罪名(昭和44年)

 最近における雇用機会の増大と賃金の上昇に伴って,有職少年の間に安易な転退職が繰り返される傾向のあることを述べたが,法務省矯正局の調査によれば,昭和四一年一一月現在で,全国の少年院に収容されている職業経験のある犯罪少年のうち,就職後,犯罪を犯すにいたった者の八一・三%は,二回以上の転職経験者である。また,司法統計によってみると,昭和四三年の一般保護少年中,転職経験が三回以上ある者は,全体の一六・五%を占めており,前年に比べて一・四%増加している。
 なお,法務省特別調査によって転職の有無をみると,III-44表に示すように,転職経験のある者は,就職経験のある者の中の五九・四%に及んでいる。同表により,参考までに罪種との関係をみると,転職経験のある犯罪少年は転職のない者に比べて,強盗,殺人,恐喝,脅迫,詐欺,横領などの犯罪を犯した者の割合が高く,暴行,傷害,強姦,特別法犯などの割合が低い。

III-44表 転職の有無別罪名(昭和44年)

 ちなみに,転職の有無と非行歴との関連をみると,III-45表に示すように,転職のある者ではその四五・四%が非行歴を持っているのに対し,転職のない者では二六・九%にすぎないことがわかる。

III-45表 転職の有無別非行前歴(昭和44年)