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 昭和45年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/2 

2 保護観察の実施状況

(一) 新受人員等

 最近五年間の保護観察事件の受理および処理の状況は,II-94表のとおりである。これによると,昭和四四年中に新たに保護観察に付された者の総数は五六,二二八人,保護観察を終了した者の総数は六四,三〇三人,年末現在の保護観察対象者の総数は九二,三六八人であり,前年に比べ,いずれも,減少している。過去一〇年間の新受人員の状況は,II-5図のとおりで,年次によりかなりの消長はあるが,最近では,その総数において,昭和四一年の六四,五四二人を一つの頂点として,逐年減少の傾向を示し,昭和四四年には六万人台を割るに至った。これは,主として,総数のほぼ半分を占める保護観察処分少年,および少年院仮退院者の減少によるものである。

II-94表 保護観察事件の受理および処理人員(昭和40〜44年)

II-5図 保護観察新受人員累年比較(昭和35〜44年)

 昭和四四年の新受人員について,保護観察の種別ごとに,保護観察期間をみたのが,II-95表およびII-6図である。これによると,保護観察処分少年では,二年以内の者が六四・四%,少年院仮退院者では,一年以内の者が四六・一%,仮出獄者では,三月以内の者が六五・七%,保護観察付執行猶予者では,三年以内の者が五七・五%となっており,仮出獄者に,保護観察期間の短期の者が著しく多い。

II-95表 新受人員の保護観察期間(昭和44年)

II-6図 保護観察期間(昭和44年)

 なお,新受人員の性別は,II-96表のとおりで,男子五三,六六八人(九五・四%),女子二,五六〇人(四・六%)であり,男子のうちでは,保護観察処分少年(四六・二%),仮出獄者(三四・九%)が高い比率を示し,女子では,保護観察処分少年(四七・八%)が最も高い比率である。

II-96表 新受人員の性別(昭和44年)

(二) 保護観察の成績等

 保護観察対象者の成績は,担当者から提出される保護観察成績報告書に基づいて,毎月,保護観察所において,「良」,「やや良」,「普通」,「不良」の四段階に評定されている。ここに,「良」とは,就学,就業,交友,環境等にほとんど問題が認められず,更生意欲が積極的で,その更生状態が一般の健全な社会人と同等の水準に達していると認められるもの,「やや良」とは,更生意欲はやや積極性にかけるが,気持や行動がほぼ安定し,その更生状態が一般の健全な社会人と同等の水準に近づいていると認められるもの,「普通」とは,更生意欲がなお消極的で,気持や行動もやや不安定であり,指導監督上相当の注意を要すると認められるもの,「不良」とは,更生意欲がきわめて乏しく,気持や行動が不安定で,指導監督上強力な措置を要すると認められるものをいう。
 昭和四四年中に,期間満了により保護観察を終了した者の成績は,II-97表のとおりである。これによると,総数では,「良」,「やや良」をあわせて,四六・一%であるが,少年院仮退院者のそれは三四・八%で,他のものに比べ,その成績はかなり劣っているといえる。また,最近五年間についてみたのがII-98表であり,これによると,「良」および「やや良」の占める比率は,逐年,増加の傾向にある。

II-97表 期間満了による保護観察終了者の成績(昭和44年)

II-98表 期間満了による保護観察終了者の成績累年比較(昭和40〜44年)

 保護観察成績の良好の者,不良の者に対してとられる措置は,保護観察の種別によって異なるが,その措置の状況は,次のとおりである。

(1) 保護観察成績良好者に対する措置

 最近五年間の措置状況をみると,II-99表のとおりである。これによると,昭和四四年中の措置人員の総数は一一,五九〇人で,措置率は,逐年,上昇している。保護観察種別ごとの措置の状況をみると,次のとおりである。

II-99表 成績良好者に対して保護観察所のとった措置(昭和40〜44年)

 保護観察処分少年について,保護観察所長は,試みに保護観察を停止し,または保護観察を解除する措置をとるが,昭和四四年中の保護観察解除人員は一〇,七一七人である。解除率は一七・七%で,逐年,上昇している。
 少年院仮退院者について,保護観察所長は,地方更生保護委員会に退院を申請し,その決定があった場合に,保護観察を終了する措置をとるが,昭和四四年中の退院申請人員は一四五人で,退院による保護観察終了人員も一四五人である。退院申請率は一・九%で,前年よりやや低下している。
 不定期刑仮出獄者について,保護観察所長は,地方更生保護委員会に不定期刑の終了を申請し,その決定があった場合に,保護観察を終了する措置をとるが,昭和四四年中の申請人員は一五人で,全員が不定期刑終了の決定を受けている。
 保護観察付執行猶予者について,保護観察所長は,地方更生保護委員会に保護観察の仮解除を申請し,その決定があった場合に,保護観察を仮に解除する措置をとるが,昭和四四年中の申請人員は七二八人で,決定人員は五三九人である。申請人員,率とも,前年に比べ,やや低下している。
 なお,仮解除の状態のまま保護観察を終了した者は,II-100表のとおり,昭和四四年中には五三九人であり,期間満了による保護観察終了人員の八・九%にあたり,人員,率とも,逐年,増加の傾向にある。

II-100表 仮解除の措置の状況(昭和40〜44年)

(2) 保護観察成績不良者に対する措置

 最近五年間の措置状況をみると,II-101表のとおりである。これによると,昭和四四年中の措置人員の総数は一,一二八人で,前年より減少しているが,措置率には変わりはない。保護観察の種別ごとの措置の状況をみると,次のとおりである。

II-101表 成績不良者に対して保護観察所のとった措置(昭和40〜44年)

 保護観察処分少年について,保護観察所長は,保護者の正当な監督に服しない等一定の事由があって,その性格,環境に照らし,将来罪を犯すおそれがあると認めるときは,家庭裁判所にその旨を通告することができるが,昭和四四年中の通告人員は一六五人で,最近五年間では,通告人員,率とも,減少の傾向にある。
 少年院仮退院者について,保護観察所長は,遵守事項を遵守しない等の事由により,地方更生保護委員会に戻し収容の申出をすることができるが,昭和四四年中の申出人員は四〇人であり,最近五年間では,申出人員,率とも,最も低位にある。
 仮出獄者について,保護観察所長は,遵守事項を遵守しない等の事由により,地方更生保護委員会に仮出獄の取消を申請し,また,罰金以上の刑に処せられたことを知ったときは,同じく,仮出獄の取消を申報する。昭和四四年中の仮出獄取消申請人員は五四七人,同申報人員は三五二人であるが,仮出獄取消決定人員は七九九人で,その内訳は,遵守事項違反を理由とするもの五二四人,有罪の裁判確定を理由とするもの二七五人である。なお,仮出獄取消申請(報)人員は,前年に引き続き増加しているが,申請(報)率は低下の傾向にある。
 保護観察付執行猶予者について,保護観察所長は,遵守事項を遵守せず,その情状が重いと認められるときは,検察官に執行猶予取消の申出をすることができるが,昭和四四年中の申出人員は二四人であって,前年の半数に減少し,最近五年間の申出もきわめて少数にとどまっている。
 また,保護観察を仮に解除されている者が,行状等に問題があり,再び保護観察を行なう必要があると認められるときは,保護観察所長は,地方更生保護委員会に仮解除の取消を申報し,その決定があった場合に,再び保護観察が開始される。昭和四四年中の申報人員は一三人で,全員が仮解除取消の決定を受けている。
 婦人補導院仮退院者について,保護観察所長は,仮出獄者の場合と同様に,仮退院の取消を申請(報)するが,この種の対象者はきわめて少なく,また,仮退院期間も短い等のため,近年,この措置をとられた者はない。
 なお,地方更生保護委員会および保護観察所長は,保護観察対象者が,一定の住居に居住しないとき,または遵守事項を遵守しなかったことを疑うに足りる十分な理由があり,かつ,呼出しに応じないか,応じないおそれのあるときは,裁判官の発する引致状により,その者を引致することができ,さらに,引致された者について,少年院への戻し収容,仮出獄の取消,婦人補導院仮退院の取消に関する審理,および,執行猶予取消の申出に関する審理を必要とする場合は,その者を,監獄,少年鑑別所等に留置することができる。昭和四四年中の引致状請求人員は三五〇人であり,実際に身柄を引致した人員は一九七人で,その内訳は,保護観察処分少年六九人,少年院仮退院者四八人,仮出獄者五八人,保護観察付執行猶予者二二人である。
 保護観察終了者の大部分は期間満了によるものであるが,その他,保護観察成績の良好者または不良者に対する特別の措置により,あるいは再犯等により,保護観察期間の中途で保護観察を終了する者がある。この特別の措置は,さきに述べたとおり,保護観察の種別により,その取扱いが異なるが,昭和四四年中の保護観察終了者の終了事由別をみたのがII-102表である。これによると,保護観察処分少年では,期間満了が一七,六四一人(五六・五%)で最も多く,次いで,解除が一〇,七一七人(三四・三%)で,再犯等による保護処分取消は二,七〇二人(八・七%)である。少年院仮退院者では,期間満了が四,七八八人(八一・三%)で,大部分を占めているが,戻し収容および再犯等による保護処分取消は九三〇人(一五・八%)に達し,退院は一四五人(二・五%)で,保護観察処分少年に比べ,かなり劣っている。仮出獄者では,期間満了が一八,二六六人(九四・五%)で,大部分を占め,仮出獄取消は七七八人(四・〇%)であり,保護観察停止中の刑の時効完成は一三〇人(〇・七%)であるが,不定期刑終了は一六人(〇・一%)にすぎない。保護観察付執行猶予者では,期間満了が六,〇八〇人(七七・一%)で過半数を占めているが,再犯等による執行猶予取消が一,六六八人(二一・二%)で,仮出獄者に比べ,取消によるものが多い。

II-102表 保護観察終了者の終了事由別人員(昭和44年)

(三) 保護観察対象者の移動と所在不明

 経済の高度成長と都市化の進展によって,都市への人口の移動が顕著になっているが,保護観察対象者の場合も,その例外ではない。このことは,移送受理事件の増加にあらわれているが,最近五年間の保護観察事件の移送状況をみたのが,II-103表である。これによると,昭和四四年中の移送受理人員は一三,三八五人で,保護観察人員中移送受理人員の占める割合(移送受理率)は一九・二%に達し,移送受理率は,逐年,増加している。保護観察の種別ごとにみると,保護観察処分少年,少年院仮退院者などにその率が高いことは,保護観察期間の長短にもよるが,一般に,青少年対象者に移動する者が多いことを示しているものと思われる。

II-103表 保護観察事件の移送受理率(昭和40〜44年)

 保護観察対象者は,住居を転じ,あるいは長期の旅行をするときは,あらかじめ,保護観察所長の許可を受ける(保護観察付執行猶予者の場合は届出である。)ことになっているが,対象者の中には,無断で,転居,旅行など移動する者も少なくなく,その間,本人の掌握が困難となって,保護観察に空白を生じ,また本人が保護観察から離脱して所在不明となるなど,再犯に陥る危険性を生ずることも否定できない。
 昭和四四年末において,所在不明の状態にある保護観察対象者は,II-104表のとおり,八,三〇三人で,年末現在保護観察中の人員の九・〇%にあたっている。なかでも,仮出獄者の所在不明率は二二・〇%と最も高く,次いで,少年院仮退院者の一一・五%,保護観察付執行猶予者の一〇・七%等の順位となっている。もっとも,仮出獄者の場合には,本人が所在不明になると,保護観察所長の申請に基づいて,地方更生保護委員会が保護観察停止の決定を行ない,これによって,その者の刑期の進行は停止し,本人の所在が判明して停止が解かれるか,あるいは刑の時効が完成するまでの間,その状態が継続するので,仮出獄者の所在不明数の中には,このような事情による累積数があることも考えられる。

II-104表 所在不明状況累年比較(昭和40〜44年)

 なお,昭和四四年中の保護観察停止申請状況は,II-105表のとおりであり,申請人員一,〇七〇人,申請率一二・四%で,申請率は,前年に比べ,やや低下している。

II-105表 保護観察停止申請状況(仮出獄者)(昭和40〜44年)

 移動対象者の取扱いについては,転居等の手続きが厳格に励行されるように指導を行ない,また迅速な所在調査と,移送庁と受理庁との間の緊密な連絡が必要であることはいうまでもない。この点について,保護観察所において相当の努力が払われているが,その成果はいまだ十分とはいい難い状況にあり,所在調査,事件移送手続等について,一層の迅速化を図ることが望まれる。

(四) 保護観察中の犯罪,非行の状況

 昭和四四年中に保護観察を終了した者のうち,保護観察中の犯罪,非行により処分された者の処分別の状況は,II-106表のとおりである。これによると,処分を受けた者の総数は八,四二九人で,保護観察終了人員の一三・一%にあたる。これを保護観察の種別ごとの割合でみると,保護観察処分少年で一三・四%,少年院仮退院者で二五・〇%,仮出獄者で四・三%,保護観察付執行猶予者で二四・五%の者が,それぞれ,保護観察中の犯罪,非行により処分を受けている。

II-106表 保護観察中の犯罪・非行により処分された者の状況(昭和44年)

 なお,右の処分を受けた者について,保護観察開始のときから犯罪,非行を犯したときまでの経過期間をみると,II-107表のとおりであり,一年以内に犯罪,非行を犯した者の割合は,総数で五八・九%と,過半数を占めている。保護観察の種別ごとにみると,保護観察処分少年で五二・九%,少年院仮退院者で六七・八%,仮出獄者で八四・三%,保護観察付執行猶予者で五三・七%の者が,それぞれ,一年以内に再犯に及んでいる。六月以内に再犯に及んだ者の割合についてみると,総数では三四・一%であり,保護観察処分少年で二八・三%,少年院仮退院者で三九・五%,仮出獄者で六四・三%,保護観察付執行猶予者で二八・九%となっている。これは,保護観察を開始した後,比較的早い時期に再犯にいたっている者が多いことを示しており,保護観察初期における処遇等に一層の工夫と努力を要することを示唆しているものと思われる。

II-107表 保護観察中の犯罪・非行までの経過期間(昭和44年)

(五) 救護,援護

 保護観察対象者が,負傷,疾病のため,または住居,職業等がないため,更生を妨げられるおそれのある場合には,保護観察所長は,まずその者が公共の施設等の救護が得られるように援助し,このような救護が得られないときは,自ら応急の保護措置をとることになっている。この場合の保護措置を,保護観察処分少年,少年院仮退院者,仮出獄者および婦人補導院仮退院者については,「救護」といい,保護観察付執行猶予者については,「援護」と呼んでいる。救護,援護の措置には,金品給与等の一時的のものと,宿泊,食事付宿泊供与等の継続的のものとがあるが,継続的の保護は,後に述べる更生保護会あるいは適当な個人に委託して行なわれる。
 昭和四四年中に救護,援護の措置をとった人員の総数は一五,八六五人であるが,そのうち,仮出獄者が一一,九一八人で,総数の七五・一%を占めている。自庁による保護は一〇,二六九人,更生保護会に委託して行なったものは,五,四八八人であり,これらの措置の状況は,II-108表およびII-109表のとおりである。ほかに個人に委託したものが一〇八人である。

II-108表 自庁による救護・援護の実施人員(昭和44年)

II-109表 更生保護会への委託による救護・援護の実施人員(昭和44年)

 なお,最近五年間の救護,援護の措置人員の推移は,II-110表のとおりで,逐年,減少している。

II-110表 救護・援護の措置人員累年比較(昭和40〜44年)

(六) 保護観察実施上の問題点と処遇の動向

 近年,保護観察対象者の数は減少の傾向にあるが,さきにも述べたとおり,保護観察中に再犯に及ぶ者がかなりの割合を占めており,また,移動等を契機として所在不明となり,保護観察から離脱する者も相当数に及んでいる。なお,交通犯罪者の増加など,保護観察対象者にかなりの質的変化が認められ,保護観察実施上問題とすべき点が少なくない。一方,保護観察官が不足のため,対象者に対する処遇の実施面の多くは,民間篤志家としての保護司に過度に依存せざるを得ない現状にある。保護司のもつ民間性,地域性の特長と保護観察官のもつ専門的知識,処遇の技術を,より直接,具体的に,対象者に志向させることによって,はじめて保護観察の十分な効果が発揮されることはいうまでもない。このような観点から,近時,次に述べる「初期特別観察」,「処遇分類制」および「集団処遇」(第三編,第三章,四,交通犯罪者の処遇の項参照)等の新しい試みが実施に移されている。現状においては,保護観察官の量的不足等のため,この方法を適用する対象者および実施地域は限られているが,保護観察の今後の動向を示すものとして,その成果が注目される。

(1) 初期特別観察

 昭和四〇年四月から,東京,大阪,名古屋の各保護観察所において,それぞれ,東京都の特別区,大阪市,名古屋市に居住する,受理時二三歳未満の者を対象として実施しているもので,保護観察の開始当初の約二月間,保護観察官が,一人あたり二〇件ないし三〇件を担当して直接処遇にあたり,保護観察の方向づけをした後,保護司の担当に移す方法である。法務省保護局の調査によると,昭和四四年中の実施人員の合計は一,二二一人である。

(2) 処遇分類制

 昭和四二年九月から,全国の保護観察所で実施しているが,この方法は,保護観察官と保護司との協働態勢のもとで,保護観察官が常時の処遇活動をどの程度まで積極的に行なうかの度合いに応じて,三種の処遇形態を予定しておき,個々の対象者について,資質,環境上の問題等を勘案し,その者に適切な処遇形態を選択し,保護観察官による処遇を重点的に行なうことによって,保護観察の効果を高めようとするものである。
 この制度は,保護観察所長が,保護観察所の所在地の属する都市の全域またはその一部区域を実施地域に指定し,当該地域内に居住する受理時二三歳未満の対象者(道路交通法違反により保護観察に付された者および更生保護会被保護者を除く。)について実施されている。法務省保護局の調査によると,昭和四四年末現在,この処遇分類制により保護観察官の積極的処遇を受けている者は三九二人である。