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 昭和45年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/2 

2 刑の執行猶予

 刑の執行猶予は,前に禁錮以上の刑に処せられたことのない者等に対して,三年以下の懲役もしくは禁錮または五万円以下の罰金を言い渡すときに,一年以上五年以下の期間内,その執行を猶予することができるほか,刑の執行猶予中の者に対しても,特定の場合には,再度の執行猶予を言い渡すことが認められている。
 刑の執行猶予の制度は,短期自由刑の弊害を回避するとともに,刑の執行を猶予することによって,再び犯罪を行なった場合には,執行猶予を取り消して実刑を執行するとの心理強制を加えることによって再犯を防止しつつ,本人の改善,更生を期することを目的とするものである。なお,この目的のために,保護観察との結合をはかり,再度の執行猶予に処せられた者には必要的に,初めて執行猶予を言い渡された者には裁量によって,保護観察に付せられることとされている。

(一) 統計からみた執行猶予率

 ところで,戦後の量刑の特色として,一般に,執行猶予言い渡しの率の増加が指摘されている。II-16表は,昭和三四年および同三九年以降五年間に,第一審で有期の懲役または禁錮に処せられた者のうち,執行猶予に付せられた人員と比率とをみたものである。これによると,執行猶予率は,おおむね増加の傾向を示し,昭和四三年には,五六・三%に達した。

II-16表 第一審懲役・禁錮言渡中の執行猶予人員と百分比(昭和34,39〜43年)

 次に,昭和四三年と昭和四四年につき,懲役,禁錮,罰金の各確定判決のうち,執行猶予の付けられた者の比率をみると,II-17表のとおりである。これによると,懲役は五五・〇%または五六・一%,禁錮は七四・一%または七二・二%,罰金は〇・〇一%に,それぞれ執行猶予が付けられていることがわかる。なお,執行猶予を付けることができる刑期が三年以下の懲役の総数について,執行猶予の率がどのくらいかをみると,昭和四三年には五七・五%,昭和四四年には五八・五%となっている。

II-17表 懲役・禁錮・罰金の確定判決人員と執行猶予人員および百分比(昭和43,44年)

 次に,II-18表は,同じ年次について,執行猶予の言い渡しを受けた者を該当法条別に示したうえ,保護観察に付されたものの割合をみたものである。これによると,執行猶予者の約九六%が,刑法第二五条第一項の規定により,いわゆる初度目の執行猶予の言い渡しを受けた者であり,このうち,裁量的に保護観察の付せられた割合は,約一五%となっている。

II-18表 執行猶予確定人員中該当法条別人員および該当法条別保護観察言渡人員(昭和43,44年)

 次に,刑法犯の主要罪名につき,通常第一審で懲役または禁錮に処せられた者のうち,執行猶予に付せられた者の人員と比率をみたのが,II-19表である。これによると,執行猶予率の高いものは,贈賄の九五・九%,収賄の九四・七%で,公務執行妨害の八二・五%がこれに続いており,一方,低いものでは,殺人の二五・四%,強盗の二五・七%,強姦致死傷の三七・七%の順となっている。なお,執行猶予者中,保護観察に付せられたものの割合は,刑法犯(準刑法犯を含む。)全体では,一八・八%であるが,罪名別にみると,強盗の五三・一%が最も高く,放火の三九・五%,強姦の三三・二%,恐喝の三二・一%,強姦致死傷の三二・〇%がこれに続いている。その割合の低いものは,収賄の〇・六%,贈賄の一・三%,業務上過失致死傷の七・一%となっている。

II-19表 通常第一審被告人の主要罪名別執行猶予率(昭和43年)

(二) 執行猶予の期間と刑期

 執行猶予の期間は,一年以上五年以下であるが,昭和四四年に執行猶予の言い渡しを受けた人員について,その猶予期間をみると,II-20表のとおりである。これによると,猶予期間は,三年以上が最も多く,総数の六一・一%を占め,これに次ぐものが,四年以上の一六・四%,二年以上の一五・五%であり,最も少ないのは一年以上の一・五%である。

II-20表 執行猶予の猶予期間別人員と百分比(昭和44年)

 次に,執行猶予に付せられた場合の,懲役または禁錮の刑期と罰金の金額を示すと,II-21表[1][2]のとおりである。これによると,六月をこえ一年以下の懲役または禁錮に執行猶予が付せられた場合が,五八・四%と最も多く,これに六月以下の二〇・六%を加えると,総数の八割弱が,一年以下の懲役または禁錮に執行猶予の付せられたものである。執行猶予の付けられた罰金の金額をみると,総数の七割弱が一万円以下となっている。

II-21表 執行猶予の言渡しを受けた人員と百分比(昭和44年)

(三) 執行猶予の取り消し

 執行猶予制度運用の効果を測定する方法の一つとして,最近三年間について,刑法犯および特別法犯の執行猶予の言い渡しを受けた人員,執行猶予の取り消しを受けた人員,取消率および取消事由をみたのが,II-22表である(ここで,取消率というのは,ある年次において,執行猶予の取り消しを受けた人員を,その年次における執行猶予の言い渡しを受けた人員で除した値であるから,正確な意味での取消率とはいえないが,大体の傾向を知ることができよう。)。これによると,執行猶予人員のうち,刑法犯では九・二%ないし一一・四%,特別法犯では二・七%ないし二・八%にあたる者が取り消しを受けている。また,取消事由をみると,約九六%が,刑法第二六条第一号による必要的取り消し,すなわち,猶予の期間内にさらに罪を犯し,禁錮以上の実刑に処せられたときであり,裁判所の裁量による同法第二六条の二に基づく取り消しの数は,著しく少ない。

II-22表 刑法犯・特別法犯の執行猶予の言渡し・取消・取消事由別人員(昭和42〜44年)

 次に,執行猶予期間内に再び犯罪を犯し,執行猶予を取り消された者について,執行猶予の言い渡しの日から再犯までの期間をみると,II-23表のとおりである。これによると,昭和四四年においては,一九・七%が三月以内に,一五・八%が三月をこえ六月以内に,二六・〇%が六月をこえ一年以内に,それぞれ再犯に及んでいる。これを累積的にみると,六月以内には三五・四%,一年以内には六一・四%が再犯を犯したことになる。すなわち,執行猶予の言い渡しを受け,再犯を犯した者のうち,約六割が,言渡時から一年もたたないうちに再犯に及んでいるわけである。

II-23表 執行猶予を取り消された者の執行猶予の言渡時からの再犯時までの期間別人員の百分比(昭和42〜44年)

 次に,執行猶予取消者のうちで,執行猶予期間内に再犯を犯した者につき,保護観察の付いた者と付かないものとに分け,それぞれ再犯までの期間をみたのが,II-24表であるが,保護観察の付いた者は,付かなかった者に比して,六月以内の再犯の占める比率がわずかに高くなっている。

II-24表 執行猶予を取り消された者の再犯までの期間別人員の百分比(昭和42〜44年)