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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第四章/四/3 

3 処遇の概要

 少年受刑者の処遇は,成人受刑者の処遇一般と比べて,より教育的,保護的であるのが特徴であり,成人受刑者とはかなり違った処遇をうけている。
 その教育可能性という面から,[1]作業を課する際は,一般にしんしゃくすべき事項に加えて,特に教養に関する事項を考慮すべきものとされているほか,各就業者に相応する作業課程を定めうること,[2]毎日四時間以内,その教養程度に応じた相当の教科を施行するほか,義務教育課程未修了者で特に必要があると認めるときは,前述の四時間以外に,さらに相応の教科を授けうること,[3]面会および通信回数は,所長が教化上必要と認める程度を標準として適宜増加することができること,[4]累進処遇の審査については,特に学業の勉否と成績をも審査すべきこととされ,また集会,競技,運動会を行なうことについては,一般累進制上の制限によらないことができることなどとされている。
 また少年受刑者の心身の特性から保護的な面についても,[1]独居拘禁の期間が,成人受刑者が最長六月であるのに対し,原則として三月とされ,また,少なくとも三〇日ごとに一回,健康診断を行なうことになっていること,[2]護送時は,他の在監者と区別すべきものとされているほか,病気の際は,成人受刑者と治療時間および病室を異にすべきものとされていること,[3]給食面では,成人受刑者よりおおむね一等級上級の主食が給与されることになっているほか,減食罰の規定が適用されないこと,[4]一日あたりの副食費は,地域差があるが,昭和四四年七月現在,成人受刑者の約三九円に対し,少年受刑者約四四円とされていること,[5]衣類についても,少年にふさわしい形式,色彩のものを着用させることができるなど特別の配慮がなされている。
 以上述べたように,少年受刑者の処遇は,成人受刑者のそれと比べて,より教育的であり,保護的であることがわかる。要するに,少年受刑者処遇の中心は,刑務所に拘禁することによって生ずる悪影響をできるだけ防止しながら,その者のもっている犯罪的傾向を除去することにあるが,少年の更生のために,とりわけ必要な,生活指導・職業訓練・教科教育に,とくに重点がおかれている。

(一) 生活指導

 少年受刑者は,成人受刑者と比較し,教育の可能性が著しく大きい反面,心身の被影響性も大であり,また青少年期特有の欲求不満や心的かっとうが多いことなどから,生活指導の果たす役割は大きい。したがって,少年刑務所においては,新入時教育を徹底し,紀律訓練を厳格に行なうとともに,積極的にカウンセリング活動が行なわれており,篤志面接委員による面接活動も活発である。また体育祭・運動会・集団散歩などの行事や,余暇時間を利用した短歌・俳句・書道・絵画・彫刻などのクラブ活動がさかんであり,所内誌・紙の編集等の自治活動や,情操を養うための花壇コンクール・合唱コンクール・積雪地における雪像コンクール等が計画,実施されている。

(二) 職業訓練および刑務作業

 少年受刑者は,技能をもたない無職者が多いので,受刑者職業訓練規則による職業訓練が重点的に行なわれている。この職業訓練を受けている人員と種目は,II-219表のとおりであり,また昭和四三年度には,五四〇人の少年受刑者が,II-220表のとおり公認の資格または免許を取得している。職業訓練を受けない者には,一般の刑務作業を行なわせるが,この場合でも,できるかぎり有用作業が選定され,かつ職業訓練の趣旨に基づいた指導が行なわれている。現在生産作業に就業している少年受刑者の人員と業種は,II-221表のとおりで,金属・木工作業などが多い。

II-219表 職業訓練受講生人員と種目(昭和44年4月25日現在)

II-220表 職業訓練による資格・免許取得人員(昭和43年度)

II-221表 生産作業就業人員(昭和44年4月25日現在)

(三) 教科教育

 教科教育は,義務教育未修了者または修了者中,学力の低い者に対して重点的に実施されている。義務教育未修了者に対する学科教育は各庁で実施されているが,松本少年刑務所では,昭和三〇年四月から市立中学校の分校を設け,所定の課程を終了した者には,本校の中学校長からの修了証明書が交付されているが,現在までに終了者は,三〇〇人に達している。
 また義務教育修了者であっても,学力が著しく不足すると認められる場合は,余暇時間を利用して補習教育が行なわれている。
 なお学力または技能をいっそう向上させるため,昭和二五年以降,通信教育が,公費または私費によって活発に行なわれており,その受講生は,II-222表のとおり,公費生三一人,私費生七六人で,課目は,簿記・英語・ペン習字その他となっている。

II-222表 通信教育受講者人員(昭和44年4月25日現在)

 教科教育の実施にあたり,視聴覚教育の教材の役割は,きわめて大きいので,少年刑務所には,ビデオ・コーダーが設置される運びとなっている。