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 昭和44年版 犯罪白書 第一編/第三章/二/4 

4 地域社会

 犯罪の発生は,地域によって,かなりの差異があり,都市では,農村地域に比較して,犯罪および非行の発生の著しいことが,指摘されている。しかし,経済の発展に伴う最近の社会的経済的諸条件の変動は,地域と犯罪との関係にも,さまざまな変化をもたらしつつある。
 まず,高度の経済成長が続いたことにより,飽和状態となった大都市から,人口が,隣接地域に流出して,周辺地帯を都市化させており,これが,地域の社会構造や住民の意識を大きく変容させているとともに,警察力や教育施設等の立ちおくれを招く結果ともなっている。このような事態は,ともすれば,その地域における犯罪や非行の発生を誘発する条件を醸成することとなろう。
 次に,農家の所得の向上,交通機関の発達,ことに自動車の普及,テレビを中心とするマス・コミの影響の浸透により,都市と農村地域との社会的経済的格差は,次第に縮小され,平準化の傾向にあるとみられるが,これは,犯罪・非行発生の条件についても同様である。
 以下,本項においては,おおむね,このような事情を背景に,地域と犯罪との関連をみていくこととする

(一) 少年刑法犯の地域差

 最初に,統計資料の関係上,大都市と農村県との対比において,少年犯罪全般の量的差異をみよう。
 農村地域としては,第一次産業人口の占める割合が高く,かつ,人口の流出の多い六県(岩手 秋田,山形,福島,島根および鹿児島)を選び,最も都市的性格の濃厚な六大都市と対比して,少年刑法犯検挙人員の人口比の推移をみると,I-66表のとおりである。

I-66表 地域別少年刑法犯検挙人員および人口比の推移(昭和35,40,42年)

 これによると,六大都市における人口比は,常に農村地域のそれより著しく高いが,その推移をみれば,昭和四〇年に一たん上昇した人口比が,四二年にはかなり減少をみせ,昭和三五年のそれよりさらに低下している。これに対して,農村地域における昭和三五年の人口比は一〇・〇であったが,四〇年には一一・八,四二年には一一・九と上昇している。これは,農村地域においても,都市化の進展が少年の非行化を促し,大都市では犯罪も拡散化の現象をみせ,地域的な格差が少なくなりつつあることを示しているものと思われる。

(二) 地域と罪種

 六大都市と農村地域の罪名別の差異をみると,I-67表のとおりである。両地域とも,とくに多いのは窃盗および業務上過失致死傷であって,両罪名を合せると,それぞれ両地域の検挙人員の七〇%以上を占めているが,都市では業務上過失致死傷の割合が農村よりやや高く,窃盗では農村地域の割合が高い。その他,暴行,傷害および強姦の割合が都市より農村地域においてやや高く,恐喝は都市において高い。

I-67表 地域別主要罪名別少年刑法犯検挙人員(昭和42年)

 農村地域においては,都市より居住地域の人間関係が濃密であるため,かえって,これらのもつれから,殺人,傷害等の人身犯の発生が問題となる場合もありうるといわれているし,強姦等が都市に比較的少ないのは,娯楽機関が発達していることなど,少年の欲求が満たされる場合が多いためともみられるが,本表にも,僅かながら,そうした差異があらわれている。

(三) 地域と非行歴

 法務省特別調査によって,犯行地域別に,非行歴の有無および非行回数をみると,I-68表のとおりであって,大都市を犯行地とする少年では,中小都市および郡部を犯行地とする少年に比較して,非行前歴を有するもの,ならびに非行回数の多いものの割合が,ともに高くなっている。

I-68表 地域別非行前歴の有無および非行回数別人員(昭和43年)

 一般に,非行や犯罪の深度が加わると,行動圏も拡大するといわれている。刺激の強い大都市では,一度非行化すると立直りも容易でなく,次第に深度を強めていくものも少なくないであろうし,大都市以外の地域で非行化し,回を重ねるごとに行動圏も拡大されて,大都市の盛り場などへ移動していく少年も少なくないのではあるまいか。

(四) 犯行地と居住地

 交通機関の発達は,犯罪者の地域移動をも容易にし,犯罪も広域化する傾向にあるといわれている。少年犯罪の行動圏がどの程度であるかを明らかにすることはできないが,犯行地と居住地との関連からこれをみると,I-69表に示すとおりである。犯行地が,都市であるか郡部であるかを問わず,居住地と同一市または同一町村か,同一都道府県内で犯罪が行なわれているものが大多数を占めてはいるが,大都市を犯行地とする少年の一割強は,他府県に居住する少年であって,大都市のもつ犯罪誘発性および少年の大都市への志向性の一端を示唆しているものと考えられる。

I-69表 地域別犯行地と居住地との関係(昭和43年)

 これを,主要罪名についてみたのが,I-70表であるが,暴行,傷害などの罪名では,犯行地と居住地とが同一地域である場合が多く,とくに,都市地域においてこの傾向が顕著であるが,強盗のような凶悪な犯罪では,地域のいかんにかかわらず,居住地以外の地域で犯罪を行なうものが,かなり多くみられる。

I-70表 地域別主要罪名別犯行地と居住地との関係(昭和43年)

(五) 自動車との関連

 最近,自動車保有台数の増加,運転人口の増大にともなって,交通関係事犯が増加していることは,繰り返し指摘されているが,一方,交通関係事犯以外の犯罪についても,自動車を犯罪の対象とし,または犯罪の手段として利用するなどの行為もかなり増加しているとみられる。
 法務省特別調査によると,自動車に関連のある犯罪を犯したものは,都市地域を犯行地とする少年の一七・五%,郡部を犯行地とする少年では一四・六%となっている。このうち,とくに,自動車との関連が強いとみられる窃盗,傷害および強姦をとりあげ,関連の程度と態様をみると,I-71表のとおりである。

I-71表 地域別主要罪種別自動車との関連(昭和43年)

 自動車と最も関連の深い罪種は強姦であって,都市における強姦犯罪の三九・九%,郡部においては三七・一%に,自動車との関連がみられ,その大部分は,自動車を犯罪の手段として利用したものである。
 窃盗では,都市,郡部ともに,その二割強が自動車との関連をもち,その大多数は,自動車を犯罪の対象としているが,都市においてはその割合がとくに高い。
 また,傷害犯では,郡部におけるより都市において,自動車との関連が強くみられる。
 少年たちにとって,自動車は,スピード感を味わい,あるいは行動圏を広められるなど,大きな関心の的であろう。その自動車の一般的な増加が,いっそう抑制力の乏しい少年たちを駆りたてて,自動車を不正に入手させたり,あるいは,これを犯罪の道具として利用させているところに,今後に残る問題がある。