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 昭和44年版 犯罪白書 第一編/第三章/二/2 

2 家族

 家庭は,子どもが最初にもつ社会的環境であり,人格形成の基本的な場として重要である。家族の成員には,それぞれの役割があり,これらの相互作用の上に,家族の機能が果たされているのであって,家族の欠損や,家族間のかっとう・緊張・無秩序などの障害は,子どもの情緒を不安定にし,その行動にも好ましくない影響をあたえ,非行や,その他の逸脱行動と強い関連を持つことが,しばしば指摘されているところである。
 戦後二〇余年を経て,後にも触れるとおり,少年の所属する家庭のうち,いわゆる欠損家庭の占める割合が減少する傾向を示しているが,一方,最近の経済の発展によってもたらされた,雇用の機会の増大,欲求水準の向上は,長期の出かせぎ者,共かせぎ家庭の増加を招き,これらからともすれば派生する,家族の機能の欠如や喪失が,成長過程にある少年の性行に強い影響を及ぼすことは否定できないところであろう。従来の犯罪白書においても,最近の犯罪少年の所属する家庭のうち,両親もそろい,経済的にもさほど困窮していない家庭の占める割合の大きいことが指摘されてきた。たとえば,司法統計年報によって,家庭裁判所が取り扱った一般保護少年について,その保護者の経済的生活程度をみると,普通以上の生活を営む家庭の占める割合は,昭和三八年には四一・一%であったが,四二年には七七・四%に増加している。また,法務省特別調査によってみても,昭和四三年の犯罪少年中,保護者の経済的生活程度が「中」またはそれ以上であるものは七七・四%であった。さらに,両親または片親の欠けている,いわゆる欠損家庭の割合も,後述のように,年々減少してきている。このような傾向は単に家族の構造上の欠損,あるいは経済的な貧困などが少年を非行化させるのではなく,親子関係の緊密さや監督のありかたなど,家族としての機能に問題の内在していることを示唆するものであろう。以下,犯罪少年とその家族の問題について,二,三の点を指摘したい。

(一) 保護者の状況

 司法統計年報によって,全国の家庭裁判所が取り扱った一般保護少年について,その保護者の状況をみると,I-54表に示すように,実父母のある者は,昭和三九年には,六九・六%であったが,四二年には七四・〇%に増加している。これに対して,両親または片親(養継親を含む。)が欠けている,欠損家庭に属する少年は,一九・六%から一六・六%へと低下している。なお,昭和四二年においては,実父のない家庭の少年は一二・五%,実母のない家庭の少年は四・〇%である。これを非行のない一般少年のそれと比較することは困難であるが,厚生省児童家庭局が,昭和三九年八月一日現在で,一八歳未満の児童のいる家庭を対象に調査した「全国家庭福祉実態調査」の結果によれば,父(実父または養継父)のない家庭は六・四%,母(実母または養継母)のない家庭は一・三%であった。この調査の対象者と,一般保護少年との年齢区分に差異のあることを考慮に入れてみても,非行のある少年の家庭に占める欠損家庭の割合は,なおかなり高率であり,とくに,父親のいない家庭の割合の高いことが注目される。

I-54表 一般保護少年の保護者の状況(昭和39〜42年)

 さらに,法務省特別調査によれば,I-55表に示すように,犯罪少年の家庭では,実父母のあるものは七四・一%であるが,実父のみのもの四・五%,実母のみのもの一三・三%,養継父または養継母のみのもの〇・四%,両親なしのものは一・六%であって,欠損家庭は一九・八%であるが,保護者の状況別に,警察で補導された経験の有無をみると,実父母のある家庭の少年では三三・四%の少年が補導歴をもっているのに対し,欠損家庭の少年では,いずれも四〇%以上が補導歴をもっている。さらに,最初の補導時の年齢をみると,実父母のある家庭の少年では,低年齢で補導を受けたものの割合が少ないのに対して,欠損家庭の少年では,低年齢で補導された経験をもつものが多い。

I-55表 保護者の状況別補導歴の有無および最初の補導年齢(昭和43年)

(二) 共かせぎ家庭

 夫婦ともに家庭外で就労している,いわゆる共かせぎ家庭は,前述のとおり年々増加の傾向にあり,雇用機会の増大等の諸事情は,女子の職場への進出を促進し,とくに子女を有する有配偶女子が,常傭者として就労する傾向が顕著になってきている。
 両親のそろっている犯罪少年の家庭のうち,共かせぎ家庭の占める割合を,法務省特別調査によってみると,昭和四二年には二〇・二%,四三年では二一・八%であった。なお,低年齢の少年の家庭ほど,共かせぎの割合は高く,昭和四三年では,一四,五歳の少年については,二七・三%,一六,七歳の少年については,二二・七%が共かせぎ家庭である。なお,同調査によって,共かせぎ家庭の少年が犯した罪名を,そうでない家庭の少年のそれと比べると,I-56表に示すとおり,共かせぎ家庭の少年が占める割合の高い罪名は,窃盗,恐喝,強姦および暴力行為等処罰に関する法律違反などとなっている。

I-56表 共かせぎ家庭少年の犯罪(昭和43年)

 ところで,昭和四二年に東京都総務局が行なった調査によると,都内中学生の所属する家庭の一四・七%,高校生のそれの一一・八%が,共かせぎ家庭であった。法務省特別調査とは,調査対象,地域等を異にするために,この限りで断定することはもとより適当でないが,犯罪少年の所属する家庭の中に占める共かせぎ家庭の割合は,一般少年の場合のそれに比して,かなり高率であるといえるように思われる。
 共かせぎをすること自体は,決して非難されるべきものではないし,また,今後,ますます,共かせぎ家庭の増加することが予想されるが,このような家庭では,両親,とくに母親と子どもとの間の接触の機会が少なくなることは明らかであり,ややもすれば,少年が家庭生活から離脱し,非行などに走る危険性があるので,親子間の精神的つながりを保つために特段の配慮と努力を払うことが必要とされよう。