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 昭和35年版 犯罪白書 第四編/第三章/三 

三 保護観察所の予防活動

 地域社会の組織に関係し予防活動に協力する公私の機関は数多い。組織事業としては,すべての関係機関の参加がのぞましい。しかし,その中心となってはたらく機関がなければ,事業の進展はみられない。地域によって,様相はちがうし,前述の青少年問題協議会やその成員としての自治団体の少年担当機関や警察なども中心となっているが,保護観察所は,そのうちでも有力な中核機関である。すなわち,犯罪者予防更生法は,保護観察所の事務に,「犯罪の予防をはかるために,世論を啓発指導し,社会環境の改善に努め,および犯罪の予防を目的とする地方の住民の活動を助長すること」を数えている。それは,具体的には,保護観察の場合とおなじく,保護観察官と保護司とによって行なわれる(IV-15図参照)。

IV-15図 地域社会と保護司活動

 保護司は,もともと,民間人として地域社会のなかで生計の道をたて生活する人であり,社会奉仕の精神によって更生保護に関与するのであるから,当然,自分の居住し生活する地域の状況に明るく,その地域社会の長所短所や問題の区域などについても,精通している。のみならず,その社会的信望のゆえに,おのずとその地域の防犯協会,PTA,地域婦人会,青年会,子供会などにもなんらかの関係をもち,したがって,これらの団体の地域浄化活動にも関係し,これらの団体を啓発して浄化活動を活発にさせる力をもっている。最近は,地区青少年問題協議会や補導連絡会などでも,その中心となってもっとも活動している人びとには,保護司の職にある人が多くなりつつある。
 各地の保護観察所は,犯罪の予防のために,主として保護司を通じて地域社会によびかけ,地域社会の組織化をこころみている。その例は各地にあるが,一例として,東京都の青少年補導連絡会について述べよう。
 東京都内で,地区青少年問題協議会の下部組織として,青少年補導連絡会が東京都の全域にわたってつくられるようになったのは,昭和三〇年のことであるが,昭和三三年末には,その数は九二地区(二三区内七三,三多摩地域一九)におよんでいる。したがって,連絡委員の総数は,九,一四四人(委員八,一〇〇人,顧問一,〇四四人)という尨大な数になるが,職能別にみると,児童委員(三四・五パーセント)がもっとも多く,ついで,保護司(二四・八パーセント),小中学校の校外生活指導主任(二一・四パーセント),警察署少年係員(六四パーセント)の順となっている。
 この補導連絡会は,少年の保護および補導の関係者が,おのおの自己の職能を十分に発揮できるように,相互に連絡協調をはかり,各自の担当事件のケースワークの実施を十全ならしめるのを目的とする集まりであるが,同時に,地域の犯罪予防の立場から,その地域の問題少年や問題児童の補導に,地域住民の代表や関係機関が相協力することを内容とする組織である。連絡会は,おおむね月一回の定例会を中心に運営されているが,各地区の実情に応じて,ブロック会や分科会も開かれている。
 なお,連絡会の窓口的役割をはたす「少年相談員」の組織は,五大地区におよび,その人数は三,一〇八人,その構成は,児童委員が四六・八パーセント,保護司が三五・八パーセント,その他が一七・四パーセントで,地域住民のなかにとけこんで,問題をもつ児童や少年の早期発見や早期対策にあたっている。