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 昭和35年版 犯罪白書 第二編/第二章/三 

三 財産刑の執行

 財産刑の裁判も,自由刑のそれとおなじく,検察官の指揮または命令によって執行する。罰金,科料および追徴の執行は,命令行為としての徴収と執行行為としての収納とに分けることができる。実務としては,まず,これらの徴収金の裁判があると,徴収すべき金額を調査決定(これを調定とよんでいる)した後,検察官は,納付期限をさだめて,納付義務者に,納付するよう告知書を発する。納付義務者から納付の延期の申出または分納の申出がされることがあるが,事情により,検察官はこれを許可することもある。
 徴収金の納付は国の収入金だから,原則として現金納付であるが,証券ですることもでき,また,収入印紙による納付も認められている。罰金も科料も,徴収成績は年とともに上昇しており,法務省刑事局の調査によれば,最近は,罰金は,調定件数の約八四パーセント,調定金額の約七四パーセントが徴収済みで,科料は,件数,金額ともに九四パーセントが徴収済みである。ただ,追徴は,徴収率がきわめて低く,追徴未済額は,昭和三一年度の三三,〇〇〇万円から昭和三三年度の八一,〇〇〇万円(徴収すべき金額の五四パーセントにあたる)と逐年いちじるしく上昇の傾向にある。
 II-60表は,罰金,科料および追徴につき,昭和三〇年から昭和三三年までの四年間の平均徴収成績を百分率であらわしたものである。なお,罰金は,徴収した金額の比率が年ごとに上昇し,未済金額の比率はこれに応じて減少し,科料についても,罰金と同様の傾向がうかがわれる。罰金と科料に徴収不能決定をしたのがあるのは,所在不明または死亡した場合と,法人に徴収すべき資産がない場合とである。追徴は,裁判確定前に財産を他に譲渡したり,隠匿したりするのが少なくなく,徴収すべき時には財産がなくなったために成績があがらないのだろうとおもわれる。

II-60表 財産刑の徴収金額と徴収既済・未済別百分率(昭和30〜33年の平均)

 最後に,労役場留置というのは,罰金や科料の納付義務者が個人で,その資力がないため罰金や科料を納付しないときは,これにかわる処分として,一定の割合で換算した期間,労役場に留置される。労役場留置の期間は,罰金については,一日以上二年以下,科料については,一日以上三〇日以下の範囲にかぎられ,罰金を併科した場合または罰金と科料とを併科した場合にかぎって三年まで,科料と科料を併科した場合は六〇日まで,延長できる。
 労役場留置の執行状況は,II-61表のとおり,罰金については,留置期間は一ヵ月以下の場合が多く(七八パーセントないし八八パーセント),これに三ヵ月以下のものを加えると,罰金の労役場留置者の総数の約九七パーセントにあたり,また,科料については,その留置期間は,五日以下の場合がもっとも多く(八〇パーセントないし九一パーセント),一〇日以下のものを加えると,科料の労役場留置者の総数の約九九パーセントになる。

II-61表 労役場留置の留置期間別人員