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 昭和35年版 犯罪白書 第二編/第一章/五/4 

4 財産刑

 財産刑は,財産的利益を奪うのを内容とする刑罰で,罰金,科料および没収の三種がある。
 罰金や科料は,古代は,贖罪金として,被害者の満足を目的とした私刑罰的性格をもっていたのが,しだいに公刑化し,近代におよんで独立の刑罰となったもので,犯罪者に一定の金額の支払義務を強制的に負担させることにより,犯罪についての規範的意識をめざめさせようとするものである。したがって,刑罰としてもつ意義については,自由刑とのあいだに差異はないが,自由刑にくらべると,とくに,利欲的犯罪の動機を抑圧し,同囚の悪感化による不良化や刑余者として自棄的となるおそれも少なく,また,その性質上,自由が拘束されないから社会復帰や更生に便宜だという長所がある。しかし,その反面,犯人の貧富によって刑の感銘力に差があり,とくに,営業的な犯罪者には,一種の税金のように考えられ,刑罰軽視の弊風を助長するという短所もある。
 そこで,自由刑の犯人を改善する作用がかならずしも確実でなく,とくに,短期自由刑がいろいろな弊害をともなうところから,自由刑にかわる刑罰として財産刑の適用を拡張するとともに,犯人の資産状態に応じた科刑方式(たとえば,日がけ,月がけの罰金制度)により,その刑罰効果を実効あらしめることが,大きな研究課題となっている。
 罰金と科料の区別は,犯罪の性質によるのが本来の法制であったが,現在は,その点はかならずしも明瞭でなく,単に金額の範囲を異にするだけになっている。
 II-49表にみるとおり,第一審で罰金,科料を言い渡される人員は,全有罪言渡人員の約九三パーセントをしめ,このうち罰金は,全有罪言渡人員の約五三パーセント,科料は約三九パーセントである。このように,罰金,科料の言渡人員が圧倒的に多いのは,その有罪言渡人員の大部分が道路交通取締法令違反者だからである。昭和三三年に罰金または科料を言い渡された者は,約一六四万人にのぼるが,このうち,道路交通取締法令違反が約一四二万人であるから,比率は約八六パーセントにのぼっているのである。なお,この表によると,罰金も科料も,ともに,増加の傾向にあるが,これまた,主として道路交通取締法令違反の増加によるものである。

II-49表 第一審有罪被告人中罰金・科料の人員と率

 罰金や科料は,通常裁判手続(公判請求により開始されるもの),略式命令手続または即決裁判手続のいずれかによって言い渡されるが,そのうちの大部分が略式命令手続で,通常裁判手続によるのは,全有罪言渡人員(略式手続,即決裁判を含めたもの)の約一パーセント前後にすぎない。通常裁判手続によって有罪を言い渡された者の昭和二八年から昭和三二年までの総人員と,罰金または科料の言渡をうけたこの期間の総人員との比率を,刑法犯と特別法犯とに分けてみると,II-50表のとおりである。すなわち,通常裁判手続では,刑法犯については,罰金や科料の言い渡されるのがわずか三・八パーセントにすぎないのに,特別法犯では,四七・一パーセントが罰金や科料を言い渡されており,しかもこの場合には,罰金が圧倒的に多く,その四五・三パーセントをしめている。なお,略式命令の手続による場合の罰金と科料との比率は,この表によると,罰金が五五・一パーセント,科料が四四・九パーセントで,やや罰金の方が多い。

II-50表 裁判手続別罰金・科料の人員と率

 罰金や科料で言い渡される総額は,法務省刑事局の調査によれば,昭和三一年から昭和三三年までの三ヵ年を平均すると,年に罰金は約三一億円,科料は約三億八千万円で,この三ヵ年平均を一件あたりの平均額にしてみると,罰金は約二,九五〇円,科料は五七〇円余となる(II-54表参照)。さらに,罰金について,言渡金額別にその件数をみると,II-51表のように,通常手続では,刑法犯,特別法犯ともに,五〇〇〇円以上五〇,〇〇〇円未満が多く,略式命令では,三,〇〇〇円未満が圧倒的に多い。なお,五〇万円以上の罰金は,主として税法関係違反事件である。

II-51表 裁判手続別罰金の金額別人員

 没収は,物に対する所有権をはじめ一切の物権を失わせ,これを国庫に帰属させる処分であるが,死刑,懲役,禁錮,罰金など主刑を言い渡すときにのみこれに付随して言い渡すことのできる附加刑である。通常裁判手続で有罪を言い渡された総人員のうち,没収を付加されたものの比率は,刑法犯では,六・六パーセント,特別法犯では,三〇・一パーセントである(II-52表参照)。

II-52表 第一審有罪人員中の没収言渡人員と率

 追徴は,賄賂など没収すべき物が事実上または法律上の事由で没収できないときに,没収にかえてその価格を強制的に取り立てることを内容とする処分である。追徴の言渡人員は,II-53表にみるように,特別法犯について言い渡されるのが多い。なお,追徴の一件あたりの平均額は,二〇万円をこえ,いちじるしく高額なのが特徴である(II-54表参照)。

II-53表 第一審有罪人員中の追徴言渡人員と率

II-54表 罰金・科料・追徴の1件あたり平均金額