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 昭和35年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/2 

2 逮捕と起訴前の勾留

 捜査は,任意捜査を原則とし,強制捜査は,法律のとくにさだめる場合にかぎって,例外的に行なわれる。強制捜査のうちで重要なのは,被疑者の身柄を強制的に拘束する逮捕と勾留である。
 逮捕は,現行犯逮捕と令状による逮捕とに大別できる。令状による逮捕とは,裁判官の逮捕状にもとづいて逮捕する場合である。昭和二九年から昭和三三年までの五年間に,逮捕状の請求があって,裁判官がこれを却下した比率は,どの程度であろうか。II-2表は,右の各年度につき,請求件数と発付件数をみたものである。これによると,逮捕状請求人員は漸減の傾向にあること,および,却下の人員もこれに応じて減少していることがわかる。警察官の送致件数は,増加の傾向をたどっているのであるから,警察における捜査事件が減少したために,逮捕状の請求もまたこれに応じて減少したものではないことは明らかである。なお,II-2表の示すように,請求に対する裁判官の却下はその数がきわめて少ないといえるであろう。

II-2表 逮捕状請求と許可・不許可の件数

 逮捕された被疑者は,警察から身柄拘束のまま検察官に送致される場合と,警察で身柄を釈放して書類だけを送致される場合とに大別できる。そして,送致をうけた検察官は,これを釈放する場合と,身柄を拘束したまま裁判官に勾留の請求をする場合とに分けられるが,検察統計年報によって,昭和三三年のをみると,同年における検察庁の既済人員八二六,九二〇人(道路交通取締法違反を除く)のうち,逮捕されないものは,その七〇パーセントにあたる五七四,二二一人で,逮捕された者は,三〇パーセントにあたる二五二,六九九人である。この逮捕された者のうち,逮捕後警察で釈放された者は,三三,八七二人で,逮捕者総数の約一三パーセントにあたり,のこる約八七パーセントにあたる者は,逮捕のまま検察庁に送致されたことになる(もっとも,この数のうち二,四六八人は,検察庁で逮捕された者である)。検察官が裁判官に勾留の請求をし,その結果勾留された者の数は,一六八,三五三人であるから,逮捕された者のうち,約六六パーセントが勾留されたことになる。検察官が勾留を請求したのに対して,裁判官が勾留請求を却下する比率は,後述のII-3表にみるように,〇・八パーセントにすぎないから,逮捕された状態で受理した事件の約三三パーセントは,検察官において,勾留の必要を認めず,釈放したことになる。かくして,昭和三三年において勾留された者は,検察庁における既済人員総数の二〇・四パーセントにあたり,また,逮捕された者(逮捕後釈放された者を含む)の六六・六パーセントにあたることになる。

II-3表 勾留状請求と許可・不許可の件数等

 そこで,昭和三三年において勾留された者が,その後どのような処分をうけたかを調べてみよう。検察官の起訴したものが,約六六パーセントにあたる一一〇,七五三人,不起訴処分に付したものが,約二四パーセントにあたる四〇,一五三人,家庭裁判所に送致したものが,約一〇パーセントにあたる一七,〇一三人である。そこで,問題となるのは,不起訴処分に付した右の二四パーセントの事件であるが,勾留された者の二〇パーセントにあたる三四,一六二人は,起訴猶予処分であるから,のこる約四パーセントの事件が,嫌疑なし,罪とならず,告訴取消などの理由で不起訴となったものである。そして,この約四パーセントの事件の内訳は,その六七パーセントが嫌疑なし,二八パーセントが告訴の取消と欠如とにより不起訴となっている。
 昭和二九年から昭和三三年までの各年につき,司法統計年報により,勾留請求の数と勾留請求の却下された数とをみると,II-3表のように,請求の〇・六ないし〇・九パーセントが却下されているにすぎない。却下は,逮捕状の発付状況とおなじく,勾留状についても,だいたいの傾向として減少の方向にむかっているといえよう。勾留状が発付されると,被疑者は,一〇日間まで勾留されるし,また,やむを得ない事情があるときは,通じて一〇日をこえない期間,さらに延長される。したがって,起訴前の勾留期間は,最長が二〇日間である。もっとも,内乱罪や騒擾罪などについては,さらに最長五日延長することができ,最長二五日におよぶことになるが,この特例の適用をみた事例は,まだない。
 では,起訴前の勾留期間は,実際の運用では,どの程度の長さであろうか。検察統計年報により,昭和二九年から昭和三三年までのものを百分率であらわすと,II-4表のとおり,約八〇パーセントのものが,一〇日の勾留期間で処理され,のこる二〇パーセントが勾留期間を延長されているが,そのうち六ないし七パーセントが一五日以内で処理されている。なお,同表に「二〇日をこえる」とあるのは,同一被疑者が他の事件でひきつづき勾留された場合であって,その件数は,昭和二八年が四二人,昭和二九年が三二人,昭和三〇年が二七人昭和三一年が六人,昭和三二年が五一人,昭和三三年が五一七人となっている。この場合には,さらに最長一〇日または二〇日間勾留される特別な事例である。

II-4表 勾留期間別百分率

 勾留中の被疑者は,勾留のまま起訴されるものと勾留後に釈放されるものとに大別できるが,その比率は,約五四パーセントが勾留のまま起訴され,約四六パーセントが勾留後に釈放される。この後者は,ただちに不起訴を意味するのではない。勾留後に釈放された者で,その後に起訴の手続のとられた者は,その四〇・七パーセントにあたる二八,四二四人である。