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 昭和35年版 犯罪白書 第一編/第二章/六/5 

5 交通犯罪の問題点

 以上で,交通犯罪の現況とその取締りについて概観した。わが国では,おそらく,生活水準の向上にともない,自動車台数は,ますます増加するであろう。しかも,道路の状態は,とくに都会地では,容易によくなるともおもえない。大都市の交通量は,いまや,飽和状態に達しつつある。交通事故による死傷者は,年々さらに,増加を示すであろう。かくて,交通の規制と取締りとは,わが国の当面するいちばん大きな問題の一つといわなければならない。
 問題の解決は,何よりも,まず,車両の運転者の交通規制の遵守と,さらに交通道徳の確立とにむけられなければならない。同時に,歩行者も,また,交通規制に服し,みずからの危害を防止するのみならず,他に交通事故の原因をあたえてはならない。このためには,学校教育,社会教育,マスコミなどによる啓発や,タクシー運転者などの生活の安定が必要であるとともに,違反の取締り,検挙や裁判による処罰もおろそかにできない。この意味で,現在の取締りをさらに強化すべきではないか,違反者の裁判がはたして円滑に行なわれているか,などにつき検討が加えられてよいはずである。新道路交通取締法案がこのほど国会を通過し,違反に対する罰則とくに酔っぱらい運転に対する刑罰が格段の強化をみようとしているのは,まことに,時宜をえたものといえよう。そこで,つぎには,裁判手続と行政処分との面で,手続の簡素化と,迅速化と円滑化について十分な検討がされるべきであろう。それには,欧米諸国の交通取締とその裁判の実情も大いに参考とされてよいであろう。